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横浜馬車道・オフィスの隙間に潜む「まばたきしない女」と第二の顎の怪異

湿度九十九パーセントの密室に転がる巨大塩ビ管と、夜の万国橋で男の右腕をねじり切る「共食い」の惨劇

画像はイメージです

強化アクリル板の向こう側

硬骨魚綱ウナギ目ウツボ科。熱帯から温帯の浅い海に広く分布する肉食魚。鋭い歯と強靭な顎を持ち、その獰猛な外見から「海のギャング」の異名をとる。しかし本来の性質は極めて臆病で警戒心が強く、日中は岩礁の隙間や洞穴に身を潜め、自身の縄張りを侵されない限りは決して無闇に他者を襲うことはない。

神奈川県横浜市金沢区。東京湾の潮風が吹き抜ける人工島の先端に、巨大なピラミッド型の屋根を頂く水族館がある。
その薄暗い館内の一角、水温二十二度に保たれた岩礁水槽の中で、私は今日も内径十五センチメートルの透明なアクリルパイプにみっちりと下半身を押し込んでいた。

(……狭くて、暗くて、最高に落ち着く……)

体の全周が硬い壁面にぴたりと密着しているこの感覚。ウツボという生き物にとって、皮膚のすべてが何かに触れている状態こそが至上の安心をもたらすのだ。尾ビレの先までパイプの奥に収め、首だけをにゅっと外に突き出し、規則正しく口をパクパクと開閉する。

ガラスの向こう側を通り過ぎていく人間の子供が、私を指差して叫んだ。
「うわあ、あいつめっちゃ怒ってる! 口開けて威嚇してるよ!」

(……失礼な稚魚だ。私はただ呼吸をしているだけなのに)

私たちウツボには、他の多くの魚類のようにエラ蓋を大きく動かして水流を作る機能がほとんど発達していない。そのため、絶えず口を開け閉めして口腔内に新鮮な海水を取り込み、小さな丸いエラ穴から排出することでしか酸素を得られないのだ。生きている限り口を開け続けなければならない宿命なのに、見た目と鋭い歯のせいで、ただ息をしているだけで「キレている」「凶暴だ」と誤解される。まったくとんだ濡れ衣である。

私は黄色と黒の美しい網目模様が入った自身の皮膚をパイプの内壁に擦りつけながら、厚さ十センチの強化アクリル板の向こう側を眺めた。
週末の午後、青い水槽の照明に照らされた通路には、たくさんの人間たちが行き交っていた。中でも私の丸い瞳を釘付けにするのは、腕を組んで寄り添い合う男女の姿だった。

ひらひらとした乾いた布を身にまとい、二本の足で軽やかに床を踏みしめ、お互いの顔を見つめて笑っている。口を閉じているのに苦しそうではなく、手と手を絡め合って、温かそうな体温を分け合っている。

(……いいなあ、人間。私もあんなふうに、誰かと並んで歩いてみたい。綺麗な服を着て、光の下で笑ってみたい……)

もちろん、自分がヌルヌルした粘液に覆われた全長一メートル二十センチの細長い魚であることは理解している。それでも、何年もこの四角い海の中から人間たちの恋模様を観察し続けるうちに、私の小さな胸ビレ(正確にはウツボには胸ビレすら退化して存在しないのだが)の奥には、身分違いの強い憧れが降り積もっていた。

その時だった。
閉館を告げる穏やかな音楽が館内に流れ始め、最後の一組のカップルが通路から姿を消した直後。水槽の目の前に、突如として極彩色のアロハシャツにハーフパンツ、ビーチサンダルという季節外れの格好をした男が姿を現した。
手にはタピオカ入りの甘い飲み物を持ち、頭の上にはなぜかネオンサインのように淡く光る輪っかが浮いている。

「いやー、わかる。わかるよその気持ち! 水槽の中から見る人間界って、なんかキラキラしててエモいよな!」

男はプラスチックのストローでタピオカをズゾゾと吸い上げながら、アクリル板をコツコツと指で叩いた。
その声は空気と水とアクリルを透過しているのではなく、私の脳内に直接響いてきた。

『なっ、誰ですか貴方は!? 閉館時間を過ぎていますよ!』

私がエラ穴を膨らませて念話を返すと、男はニカッと白い歯を見せて笑った。

「俺? 俺はこのあたりの海域と縁結びを適当に管轄してる神様! いやー、お前さんが毎日毎日あんまりにも熱心に『人間になりてえ〜、恋してみてえ〜』って願うもんだからさ、なんか面白そうだし叶えてやろうかなと思って!」

『えっ……ほ、本当ですか!?』

私は思わずアクリルパイプから体半分を乗り出した。

「マジマジ! 俺にかかれば、お前さんを絶世の美少女にトランスフォームさせるくらい朝飯前よ。住む部屋も、横浜のみなとみらいが一望できる家具付きマンションを用意してやるし、人間界を満喫できるようにオフィス街の職場までセッティングしてやる。戸籍? 住民票? マイナンバー? そのへんの面倒くさい行政データや周囲の人間の記憶は、神の権能でちょちょいと現実改変しとくからノープロブレム!」

『す、すごいです神様……!』

「ただし!」

神様はタピオカのカップを片手に、ビシッと人差し指を突き立てた。

「条件が一つだけある。それは『人間に正体がウツボだとバレないこと』だ!」

『正体が、バレないこと……?』

「そう! もし一人にでも『あいつ実はウツボじゃね?』って確信されたら、その瞬間に契約終了! お前さんは即座に元のウツボの姿に戻り、さらには極上のうつぼ料理にされてしまうのだ!」

『う、うつぼ料理!?』

私は全身の鱗(ウツボには鱗もないのだが)が逆立つような恐怖に震えた。

「知ってるか? 高知のタタキ、和歌山の湯引き、千葉のウツボ丼……! ウツボってのはな、小骨は多いが白身で淡白、なのに皮目のゼラチン質に濃厚な旨味とコラーゲンが詰まってて、唐揚げにしても鍋にしても絶品なんだよな〜! 特に冬場の脂が乗ったやつなんかもう、ポン酢と紅葉おろしで食べたら最高でさあ!」

『や、やめてください! 自分の調理法を聞かされる身にもなってください!』

「あはは、ごめんごめん! まあ要するに、普通に人間のフリをして楽しく暮らしてりゃいいってことよ。どうする? 乗るか、この話?」

私は自分の黄色と黒のまだら模様の尾を見つめ、それから誰もいなくなった薄暗い通路を見つめた。うつぼ料理になるのは絶対に嫌だ。けれど、このまま一生アクリルパイプの中で口をパクパクさせながら、ガラスの向こうを羨むだけで終わるのも嫌だった。

『……やります。私を、人間にしてください!』

「よっしゃ、交渉成立! じゃあ行くぞ、せーのっ、ハイ人間!」

神様が軽く指を鳴らした瞬間、私の視界はまばゆい黄金色の光に包まれた。

みなとみらい線・馬車道駅付近

横浜市中区、馬車道。歴史的な赤レンガや石造りの建築と、近代的な高層オフィスビルが混在する街並みの一角に、中堅商社「蒼海トレーディング株式会社」のオフィスはある。

「……ふぅ。やっと午前の集計が終わったな」

営業企画部のデスクでパソコンの画面から目を離した瀬川せがわ湊みなとは、大きく背伸びをして立ち上がると、気分転換に給湯室で二人分の温かい緑茶を淹れて戻ってきた。そして、ふと斜め向かいの席に視線を向け──マグカップを両手に持ったまま固まった。

「……あの、靭うつぼさん? またそこに挟まってるんですか?」

オフィスの一番奥、窓際の角席。
そこには本来座るべきオフィスチェアが空っぽのまま放置されており、代わりにデスクの側面と、隣の席を隔てる布張りパーテーションのわずか二十センチにも満たない隙間に、一人の女性がすっぽりと縦に挟まっていた。

靭虎乃とらの。一ヶ月前に中途採用で入社してきた営業企画部の新人社員である。
その容姿は、社内の誰もが最初は息を呑んで二度見するほどの絶世の美女だった。抜けるような白磁の肌に、濡れたような艶を放つ黒髪。そこには一筋だけ、鮮やかな黄金色のインナーカラーが網目のように入っている。切れ長でどこかエキゾチックな瞳に、モデルのようにすらりとした長身。

だが、彼女の行動はあまりにも奇異だった。
今まさに、虎乃はタイトなオフィスカジュアルのスーツを着たまま、机の鉄脚とパーテーションの隙間に全身をねじ込み、膝を抱えて体育座りのような姿勢でギュウギュウに詰まりながら、膝の上に乗せたノートパソコンのキーボードをカタカタと叩いていたのである。

「…………ここ。……おちつく」

虎乃は首だけを隙間からにゅっと突き出し、瀬川の方を見て片言で呟いた。
その顔には一切の表情がなく、しかも驚くべきことに、彼女はどれだけ長い時間見つめ合っていても一度もまばたきをしない。

(ま、また目が乾きそうな顔でこっちを見てる……! ていうか、なんで口がずっと半開きでパクパクしてるんだ!?)

瀬川は内心で冷や汗を流しながらも、苦笑いを浮かべて彼女のデスクに歩み寄った。
虎乃の口元は、喋っていない時でも常に一センチほど開いており、「パク……パク……」と一定のリズムで開閉を繰り返している。その隙間からは、妙に白くて尖った歯がちらちらと覗いていた。
おまけに彼女は極度の人見知り──いわゆる陰キャであり、誰かに話しかけられるとサッと机の下やロッカーの隙間に後ずさりして隠れてしまうため、社内ではすでに「絶世の美女だが近づきがたい不気味な人」として遠巻きにされていた。

しかし、お人好しな性格の瀬川だけは違った。

「いくら落ち着くからって、そんな窮屈なところにいたら体が痛くなりますよ。ほら、誰も見てませんから、ちゃんと椅子に座ってください。これ、給湯室で淹れてきたばかりの温かい緑茶です」

瀬川がデスクの上に湯気の立つマグカップを置くと、虎乃は「パク……パク……」と口を動かしながら、警戒するように左右をキョロキョロと見回した。そして、まるで岩陰から獲物を窺う海洋生物のような滑らかさで隙間から這い出し、ストンと椅子に腰を下ろした。

「……せがわ、さん。……やさしい」

「いや、普通ですよ。まだ職場の環境に慣れないだけですもんね」

「……わたし、前いたところ……もっと、暗くて、狭かった。……ここ、広すぎる。……背中と、横が、壁に、くっついてないと……ソワソワ、する」

(前いたところってどんなブラック企業だよ……!? 独房か何かに監禁されながらデータ入力でもさせられてたのか……!?)

瀬川は勝手に重い過去を想像して同情を深めた。
実際、虎乃の頭の中では(魚類にはまぶたという器官が存在しないため、人間になってもまばたきという概念が理解できず、意識しないと目を閉じるのを忘れてしまう……! それに陸上は空気が乾燥していて息苦しいから、ついエラ呼吸の癖で口をパクパクさせてしまう……!)と必死の葛藤が繰り広げられていたのだが、もちろん瀬川が知る由もない。

「……あと、せがわさん。……わたし、目が、乾く」

「そりゃあ一分間に一回もまばたきしてないからですよ! ほら、目を閉じて、パチパチってしてみてください」

「……こう、かな?」

虎乃は不器用そうに両目をギュッと閉じ、パッと開いた。

「そうそう。それをもっと自然に繰り返すんです。……ところで靭さん、もうすぐお昼休みですけど、よかったら今日、一緒にランチに行きませんか? 近くに美味しいイタリアンのお店があるんですよ」

瀬川が少し頬を掻きながら誘うと、虎乃の丸い瞳がカッと見開かれた。
人間になって一ヶ月。職場で誰かから食事に誘われたのは、これが初めてだった。

(……ランチ! 男性と二人の食事! これぞ私が水族館のパイプの中から夢見ていた、人間のラブコメイベント……!)

虎乃は胸の奥がキュッと跳ねるのを感じながら、パクパクしていた口を頑張って閉じ、こくりと大きく頷いた。

「……いく。……せがわさんと、エサ、たべる」

「エサって……はは、まあ似たようなもんか。じゃあ十二時になったらロビーで待ち合わせましょう」

馬車道・裏通りのトラットリア

昼休みのチャイムとともに会社を出た二人は、赤レンガ調の落ち着いたイタリアンレストランのテーブル席で向かい合っていた。
店内には陽気なカンツォーネが流れ、周囲のテーブルではOLやサラリーマンたちが楽しげに談笑している。

「ここの生ハムとルッコラのペペロンチーノ、絶品なんですよ。靭さんは魚介のカルパッチョと、本日の鮮魚のポワレにしたんでしたっけ」

「……うん。……わたし、魚、すき。……タコとか、イカも、すき。……特に、タコは、見つけると、体に巻きついて、ねじり切って、たべるくらい、すき」

「ね、ねじり切って……? ああ、タコの踊り食いとか、韓国のサンナクチみたいな料理が好きってことですね! いやー、こんな綺麗な顔をして意外とワイルドな食の好みだなあ」

瀬川が明るくフォローを入れたちょうどその時、ウェイターが瀬川のペペロンチーノと、鮮やかな前菜の皿を運んできた。前菜は真鯛とタコの薄造りに、オリーブオイルとハーブが美しくあしらわれたカルパッチョだ。

「お待たせいたしました、ペペロンチーノと本日のカルパッチョでございます」

皿が置かれた瞬間、虎乃の瞳孔がギュッと収縮した。
新鮮な生の魚介の匂い。それを感じ取った途端、彼女の脳内に眠るウツボの本能が激しく刺激された。

「……おいしそう。……いただきます」

虎乃はフォークを手に取ると、タコの切り身を一切れ突き刺し、大きな口を開けてパクリと咥え込んだ。
そして、モグモグと咀嚼するのかと思いきや──彼女はほとんど噛むことなく、顎をわずかに引いて、喉の奥でゴクンと奇妙な音を鳴らした。

「えっ、早っ!? 今、噛みました!?」

瀬川が目を丸くした次の瞬間だった。
虎乃が二切れ目の真鯛を口に運んだ際、少し大きめの切り身が唇の端に引っかかった。すると、大きく開かれた彼女の薔薇色の口腔のさらに奥──暗い喉の奥底から、白く輝く小さな二つ目の顎のようなものが、音もなくニュッと前にせり出してきたのである。

カチッ

その小さな顎は、鋭い鉤爪のような歯で真鯛の切り身をガッチリと挟み込むと、そのまま一気に食道の奥へと引きずり込んだ。

「…………えっ?」

瀬川の手から、フォークがカシャンと皿の上に落ちた。
今の、なんだ?
口の中から、もう一つ小さな口が出てきて、刺身を奥に引っ張り込まなかったか?
ウツボ科の魚類は、他の魚のようにエラ蓋を使って水流を起こし獲物を吸い込むことができない。その代わり、喉の奥にある「咽頭顎いんとうがく」──通称インナーマウスと呼ばれる第二の顎を口内へと突出させ、獲物に直接噛みついて食道へと引きずり込むという、地球上の脊椎動物でも極めて珍しい独自の捕食機構を備えている。

だが、一般の商社マンである瀬川にそんな海洋生物学の知識があるはずもない。

「……せがわさん? ……どうした?」

虎乃は何事もなかったかのように口をパクパクさせながら、不思議そうに首を傾げた。その白い喉元が、ゴクリと上下する。

「い、いや……! なんでもないです! 今ちょっと、靭さんの喉の奥から、エイリアンみたいなちっちゃい顎が飛び出して刺身を丸呑みにしたような気がしたんですけど……あはは、まさかね! 連日の残業で相当目が疲れてるみたいです!」

「…………!」

虎乃の背筋に、氷水のような悪寒が走った。

(し、しまった……! 生のタコと魚の匂いに興奮して、うっかり咽頭顎を使ってしまった……! バレたら即座に高知のタタキか和歌山の湯引きにされてしまう……!)

虎乃は青ざめながら、慌てて両手で自分の口元を覆った。

「……わ、わたし、舌が、ちょっと、長い、だけ。……よく、見間違えられる。……ぜんぜん、咽頭顎じゃ、ない。……ウツボじゃない」

「ウツボ? ははっ、誰もウツボだなんて言ってませんよ! ユニークな冗談を言うんですね、靭さんは!」

瀬川は爽やかに笑い飛ばし、自分のパスタをフォークで巻き取った。
(そうだよな、こんなモデルみたいに綺麗な女性の中から二つ目の顎が出てくるわけがない。照明の加減で舌か歯が変に見えただけだ。うん、気のせい、完全に気のせいだ!)

瀬川が持ち前のポジティブさで無理やり自分を納得させたことで、虎乃はどうにか鍋の具材になる危機を免れたのだった。

中区海岸通・マンションの一室

それからさらに二週間が過ぎた金曜日の夕方。
コピー機の横の隙間に挟まって書類のホチキス留めをしていた虎乃が、通りかかった瀬川のスーツの裾をちょんと引っ張った。

「……せがわさん。……いつも、仕事、おしえてくれて、ありがとう」

「いえいえ、もうすっかり慣れたじゃないですか。……まあ、相変わらず狭いところには挟まってますけど」

「……あの。……お礼に、今日、うちの、巣穴に……じゃなくて、家に、こない? ……ごはん、つくる」

「えっ……!? 靭さんの、家に!?」

瀬川の心臓がドキンと大きく跳ね上がった。
一人暮らしの女性の部屋への招待。しかも手作り料理を振る舞ってくれるという。
いくら普段の言動がちょっと(かなり)変わっているとはいえ、相手は社内中の男性社員が憧れる絶世の美女である。瀬川の耳はみるみるうちに真っ赤に染まった。

「い、いいんですか!? 僕なんかがお邪魔しちゃって……!」

「……せがわさん、だから、いい。……ほかの人間、こわいけど……せがわさんは、あったかい、から」

虎乃はまばたきひとつせず、真っ直ぐに瀬川の目を見つめて言った。ただ、その頬にはうっすらと朱色が差しており、パクパクと動く口元の速度がいつもより少しだけ早くなっていた。

(くっ……! なんだこのギャップは! 普段は無表情なのに、こんなふうに頼られたらドキドキが止まらないじゃないか……!)

こうして瀬川は、浮き足立つ心を抑えきれないまま、虎乃の住むマンションへと向かうことになった。

虎乃の自宅は、みなとみらいの夜景がすぐ近くに迫る高級マンションの八階にあった。
「……どうぞ」
虎乃がオートロックを解除し、重厚な玄関の扉を開けた瞬間──

ブオオオオオオオオオオオッ!!

まるで熱帯植物園のボイラー室か、あるいはサウナのロウリュウ直後のような、すさまじい湿気と生温かい風の塊が玄関から吹き出してきた。

「うわあっ!? な、なんだこの湯気は!? 火事ですか!?」

「……ちがう。……乾燥、お肌に、わるい、から」

瀬川が目をしばしばさせながらリビングに足を踏み入れると、そこは一面の白い霧に包まれていた。
十六畳はある広々としたデザイナーズリビングの四隅に、飲食店の厨房や工場で使われるような銀色の巨大な業務用大型加湿器が四台も鎮座し、太いノズルから猛烈な勢いで白い水蒸気を噴き上げているのだ。
壁に掛けられたデジタル温湿度計に目をやると、湿度の表示が99%のままピクリとも動かず、横の快適度マークが【水没注意】という見たこともないエラー表示を出して点滅していた。

「いやお肌にいいレベルを超えてますよ! 壁紙がちょっと剥がれかけてるじゃないですか! エラ呼吸でもする気ですか!?」

虎乃は口で「ギクッ」と効果音を発しながら、視線を泳がせた。ウツボの皮膚には鱗がなく、全体を分厚い粘液が覆うことで外部の細菌や寄生虫、そして岩肌の摩擦から身を守っている。そのため、乾燥した人間の部屋にそのままいると体表の粘液が干上がってしまい、猛烈な不快感に襲われるのだ。

「……それより、せがわさん。……そこ、すわって。……いま、ごちそう、もってくる」

「あ、はい……」

瀬川がしっとりと湿ったソファに腰を下ろし、部屋のインテリアを見回していると、さらなる異常が目に飛び込んできた。
リビングの奥、本来ならベッドが置かれているはずの寝室スペースに、ベッドも布団も存在しない。
その代わり、工事現場の地下埋設などで使われる、内径八十センチ、長さ二メートルほどの巨大な灰色の硬質塩化ビニル管(塩ビパイプ)が、床の上にゴロンと一本転がっていたのである。パイプの入り口には、申し訳程度に黄色と黒の柄のタオルケットが突っ込まれていた。

「……あの、靭さん? あそこに転がってる巨大な水道管みたいなの、なんですか? 現代アートのオブジェか何か?」

キッチンから大きな銀色のボウルを抱えて戻ってきた虎乃は、誇らしげに胸を張った。

「……あれ、わたしの、寝床。……人間用の、ベッド、広すぎて、落ち着かない。……あの、塩ビ管の中に、すっぽり、入って、寝ると……すごく、よく、眠れる。……たまに、頭だけ、出して、寝てる」

「塩ビ管の中で寝てる!? マリオの土管じゃないんだから!」

「……せがわさんも、あとで、入ってみる? ……内壁が、ツルツルしてて、ひんやりしてて、最高」

「遠慮しておきます! あ、お料理、手伝いますよ。何を作ってくれたんですか?」

瀬川が気を取り直してテーブルの上を覗き込むと、虎乃がドンと置いた銀色のボウルの中には、氷水の上に山盛りにされた丸ごとの生タコ、丸ごとの生イカ、そして一切れも包丁の入っていない丸ごとの生アジとイワシが、そのままの姿で積み上げられていた。
調理器具を使った形跡はゼロ。調味料すら置いていない。完全なる「素材そのまま」である。

「…………えーっと、靭さん? これからお刺身にするんですよね?」

「……? ……もう、できてる。……新鮮な、うちに、頭から、まるごと、どうぞ」

「頭から丸ごとは無理ですよ! せめて三枚におろして醤油をつけさせてください!」

「……人間、めんどくさい、食べ方、する」

虎乃は少し不満そうに頬を膨らませると、自分の手で生タコの足をむんずと掴み、そのまま顔の近くに持ち上げた。
そして「やっぱり、タコは、そのままじゃ、大きすぎるから……」と呟きながら、タコの足にガブリと食らいつくと、まるでフィギュアスケート選手のように、全身を高速でグルグルと回転させ始めたではないか。

「ちょっ、靭さん!? 何やってるんですか! なんで自分の体をスピンさせてタコの足を引きちぎろうとしてるんですか!?」

「……んぐっ! ……こうやって、回転して、ねじり切るのが、いちばん、食べやすい……!」

ウツボには獲物を切り裂くための臼歯がなく、すべての歯が獲物を逃さないための鋭い犬歯状になっている。そのため、自分の口に入らない大きな獲物(特にタコなど)を捕食する際は、噛みついたまま自身の細長い体を高速回転させ、その遠心力と捻じれの力で肉を食いちぎる「回転捕食スピニング」という習性があるのだ。

「包丁! 包丁を貸してください! 僕が切りますから、回転するのはやめてください!」

瀬川は涙目でキッチンに駆け込み、自ら包丁を握ってタコとアジを刺身にした。
ドキドキの止まらない甘い自宅デートのはずが、湿度九十九パーセントの密林のような部屋で、塩ビ管を眺めながら必死に魚を捌く羽目になるとは。それでも、切り分けた刺身を「おいしい……せがわさん、すごい」と目を輝かせて(まばたきはせずに)食べる虎乃の姿を見ていると、瀬川の胸にはやはり不思議な愛おしさが込み上げてくるのだった。

万国橋・運河沿いの遊歩道

事件が起きたのは、その奇妙な自宅訪問から三日後の夜だった。
午後九時過ぎ。残業を終えた瀬川は、馬車道のオフィスから桜木町駅へと向かうため、運河に架かる万国橋の近くを一人で歩いていた。
海風が夜の運河を撫で、水面にみなとみらいの観覧車のネオンが揺れている。人通りの少ない遊歩道に差し掛かった時、背後の暗がりから、ペタ、ペタ、と湿った足音が近づいてきた。

(……ん? こんな夜更けに誰だろう)

瀬川が足を止めて振り返った瞬間。
運河の柵の暗がりから、身長百九十センチはあろうかという大柄な男が、街灯の薄明かりの下へとヌッと姿を現した。
男は真っ黒なロングコートを羽織っていたが、その肌は不気味なほど青白く、顔から首筋にかけて毒々しい黒と茶色の斑点模様が浮かび上がっていた。そして何より異様だったのは、男がまばたきひとつせず、口を「パク……パク……」と開閉させながら、粘つくような殺意のこもった目で瀬川を睨みつけていたことだ。

「……お前か。……トラノの、隣で、ヘラヘラ、笑っていた、オスは」

低く、水底から響いてくるようなしゃがれ声だった。

「えっ……? と、トラノって、靭さんのことですか? 貴方は一体……」

「……俺は、あいつと、同じ、水槽にいた。……隣の、岩穴から、ずっと、あいつの、美しい、黄色と黒の、網目模様を、見ていた……!」

男が一歩踏み出すと、その足元のアスファルトに、ヌルリとした透明な粘液が滴り落ちた。

「……あいつが、急に、水槽から、消えて……俺は、絶望した。……だから、水族館の、排水溝に、棲みついていた、海の悪魔と、契約したんだ……! 寿命の、半分を、捧げて、人間の、姿を、手に入れた……!」

「す、水槽!? 海の悪魔!? 何を言ってるんですか、落ち着いてください!」

後ずさりする瀬川の前に、男は弾丸のような速度で距離を詰めた。ウツボが岩陰から獲物に飛びかかる際の瞬発力はすさまじい。瀬川が悲鳴を上げる間もなく、男の巨大な手が瀬川の胸倉を掴み、運河の冷たい石畳へと押し倒した。

「ぐあっ……!」

「……俺の、トラノに、近づくな! ……その、細い、首を、噛み砕いて、海に、沈めてやる……!」

男がカッと口を裂けんばかりに大きく開いた。
そこには、人間のものとは到底思えない、内側に向かって無数に生え揃ったガラスの破片のような鋭い歯列があった。そしてその喉の奥から──ギチギチと音を立てて、巨大な第二の顎(インナーマウス)が飛び出してきた。

(あ、あれは……! この前、レストランで靭さんの口の中に見えたやつと同じ……!? やっぱりあれは目の錯覚じゃなかったのか!?)

絶体絶命の恐怖の中で、瀬川はすべてを悟った。
男の喉から突き出された凶悪な咽頭顎が、瀬川の喉笛へと突き刺さろうとした、まさにその刹那。

ドゴォッ!!

横合いから飛んできた黒い影が、すさまじい勢いで男の脇腹に激突した。

「ガハッ!?」

男が石畳の上を転がり、瀬川から引き剥がされる。
瀬川が呆然と顔を上げると、そこには月光を背に受け、黄色いインナーカラーをなびかせて立つ虎乃の姿があった。忘れ物を届けようと、会社から瀬川の後を追ってきていたのだ。

「……せがわさんに、さわるな!」

「……トラノ! ……なんで、そいつを、かばう!? ……俺たちは、同じ、ウツボだろうが!」

「……あんた、水族館でも、わたしの、パイプに、無理やり、入ってこようとして、ウザかった! ……せがわさんは、わたしの、だいじな、ひと!」

虎乃の美しい顔が、かつてないほどの怒りに染まった。
彼女は一切まばたきをしない瞳で男をロックオンすると、綺麗な唇を耳元まで大きく裂けるように開いた。

シャアアアアアアアアッ!!

人間の声帯では絶対に出せないような威嚇音とともに、虎乃の口腔の奥から、白く輝く流線型のインナーマウスがシュッと鋭く飛び出した。

「なっ……!? 靭さんまで……!」

腰を抜かしている瀬川の目の前で、世にもおぞましい、しかしどこか神秘的ですらあるインナーマウス同士の超至近距離バトルが幕を開けた。

ガチィン! ギリギリギリッ!!

男が突き出した咽頭顎と、虎乃が突き出した咽頭顎が、互いの口先数センチの空間で激しくぶつかり合い、火花が散るような硬質な音を響かせる。

「……お前の、相手は、俺だ、トラノォッ!」

「……だまれ、ドクウツボの、くせに!」

男が大口を開けて虎乃の肩に噛みつこうとするが、虎乃はウツボ特有の異様なほど柔軟な関節と背骨をしならせ、まるで新体操のリボンのように体をくねらせて紙一重で回避した。
そのまま虎乃は男の懐へと滑り込むと、男の伸ばした右腕の二の腕に、外側の顎でガブリと深く噛みついた。

「ぐあああっ!?」

さらに虎乃は、噛みついたままの状態で咽頭顎を男の肉に食い込ませると──先日のマンションで見せた、あの高速スピニング(回転捕食)を全力で繰り出した。

ギュルルルルルルルッ──ブチィッ!!

「ギャアアアアアアアアアッ!!」

すさまじい回転力によって、男の右腕の肉と黒いコートがねじり切られた。
しかし、男の傷口から噴き出したのは赤い血ではなく、黒い霧のような魔力と海水だった。虎乃は食いちぎった男の腕の肉をモグモグと咀嚼し、ゴクリと飲み込んだ。

「……けっ。……悪魔と、契約したせいで、泥臭い、味」

「ひ、ひぃぃっ……! 靭さんが、男を食べた……!?」

瀬川がガタガタと震えながら声を上げると、虎乃は口の端を拭いながら、なぜか少し得意げに解説した。

「……おどろくこと、ない。……ウツボは、縄張り争いや、空腹のとき、自分より、弱いウツボを、共食いする、生き物。……自然界では、よくあること」

「ここで冷静なウツボ豆知識を入れてこないでください! 情報量が多すぎて頭がパンクしそうです!」

「お、おぼえてろよぉぉ……!」

右腕の肉を食いちぎられたオスのウツボ男は、悪魔の契約の力が弱まったのか、みるみるうちに体長二メートル近い巨大な茶色いウツボの姿へと戻っていくと、そのまま運河の柵の隙間から夜の海へとドボンと飛び込んで逃げ去っていった。

運河のほとり・街灯の下

嵐のような戦いが終わり、夜の遊歩道に静寂が戻った。
残されたのは、石畳にへたり込む瀬川と、インナーマウスを喉の奥へと引っ込め、美しい人間の女性の顔に戻った虎乃の二人だけだった。

「…………」

「…………」

気まずい沈黙が流れる中、虎乃の瞳から、ポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちた。

「……見られた。……せがわさんに、ぜんぶ、見られた」

虎乃は自分の喉元を押さえ、震える声で言った。

「……インナーマウスも、出した。……スピニングも、した。……共食いも、した。……わたしが、人間じゃなくて、ウツボだってこと……完全に、バレた」

「う、靭さん……」

「……せがわさん、さようなら。……わたし、契約違反、だから。……これから、うつぼ料理に、なってきます。……タタキか、湯引きか、唐揚げか、わからないけど……せがわさん、もし、居酒屋で、わたしを見かけたら……ポン酢で、おいしく、たべて……」

「いや食べませんよ! ちょっと待ってください、うつぼ料理って何ですか!?」

その時だった。

「はいストップ! そこまでー!」

パァン! と陽気なクラッカーの音とともに、運河の街灯の上に、アロハシャツにハーフパンツ姿の男がどこからともなく降ってきた。片手にはやっぱりタピオカドリンクを持っている。

「いやー、惜しかったなトラノちゃん! まさか元カレ候補のストーカーウツボが乱入してくるとは予想外だったけど、人間の目の前でインナーマウス全開で共食いしちゃったら、さすがに言い逃れは無理だわ! はい、ルール通り契約終了! 毎度ありー!」

神様が空いている方の手を掲げて、パチンと指を鳴らそうとした。その背後には、なぜか巨大な柳刃包丁とまな板が宙に浮かび上がっている。
次の瞬間、虎乃の足元が淡く光り始め、スラリとした美脚が黄色と黒のウツボの尾へと変わりかけた。

「待てええええええええっ!!」

瀬川は恐怖も忘れ、地面を蹴って飛び出すと、虎乃の前に立ち塞がり、街灯の下で神様に向かって綺麗な土下座を決めた。

「あんたが誰かは知りませんが、神様か何かですよね!? お願いします、靭さんを料理にしないでください! 彼女の命を助けてください!」

額を石畳に擦りつける瀬川を見下ろし、神様は目を丸くした。

「おや? お前さん、怖くないのか? こいつは見た目が美少女なだけで、中身は完全にウツボだぞ? まばたきはしないし、口はいつも半開きだし、喉の奥から二つ目の顎が出てきてタコを丸呑みにするような化け物だぞ?」

「化け物なんかじゃありません!」

瀬川は顔を上げ、真っ直ぐに叫んだ。

「確かに、最初はちょっと変わってる人だなと思いました! 机の隙間に挟まってるし、部屋の湿度は九十九パーセントだし、塩ビ管で寝てるし、回転しながら生タコを引きちぎるし! でも……彼女は、慣れない人間の世界でいつも一生懸命に働いて、僕にお礼がしたいって手料理まで振る舞おうとしてくれて、今だって、自分の正体がバレて料理にされるかもしれないのに、僕を守るために戦ってくれたんです! ウツボだろうが人間だろうが関係ありません! 僕は……僕は、靭虎乃さんが好きなんです!」

「……せがわ、さん……」

背後で、虎乃が自分の口元を両手で覆い、大きく目を見開いた。

「……ふうん?」

神様はタピオカをズゾゾと吸い込むと、ニヤリと悪戯っぽく笑った。

「そこまで言うなら、特例を認めてやってもいいぜ。ただし、新しい条件がある」

「条件!? なんでもします! 僕の寿命でもなんでも持っていってください!」

「いや、寿命はいらん。悪魔じゃないんだから。新しい条件はひとつ──お前さんが一生、そのウツボ娘と一緒に暮らして、幸せにしてやることだ! どうだ、できるか?」

「……えっ? それだけでいいんですか!?」

瀬川は拍子抜けしながらも、力強く頷いた。

「もちろんです! 絶対に僕が、靭さんを幸せにしてみせます!」

「言ったな? よし、契約更新だ! じゃあな、末永く爆発しろよー!」

神様が指を鳴らすと、虎乃の足元の光は消え、神様の姿も夜風の中に跡形もなく消え去った。
残された遊歩道で、虎乃はおずおずと瀬川の背中に歩み寄り、そのスーツの裾をぎゅっと掴んだ。

「……せがわさん。……わたし、ウツボなのに……ほんとうに、いいの?」

「いいんですよ。これから少しずつ、人間の暮らしも覚えていけばいいんですから」

瀬川が優しく微笑みかけると、虎乃は無表情だった顔をふわりと綻ばせ、人間になって初めて、ぎこちなくも眩しい笑顔を見せたのだった。

翌朝・内径八十センチの塩化ビニル管

ブオオオオオオオオオオオッ!!

翌朝。
瀬川は、息が詰まるような猛烈な湿気と、全身の骨が軋むような凄まじい圧迫感で目を覚ました。

「……ん、うぅ……? なんだ、体が、まったく動かないぞ……?」

うっすらと目を開けた瀬川の視界にあったのは、湾曲した灰色のプラスチックの天井と、すぐ鼻先にある虎乃の美しい寝顔だった。
しかも、虎乃は自分の長い手足を瀬川の胴体にこれでもかというほどきつく巻きつけ、二人の体は一ミリの隙間もないほどギュウギュウのすし詰め状態になっていた。

そう。ここは虎乃のマンションにある、あの内径八十センチの硬質塩化ビニル管の中だったのである。

「う、靭さん……!? ちょっと、苦しいです……なんでこんな狭いパイプの中に二人で入ってるんですか……!?」

瀬川が必死に声を絞り出すと、虎乃は寝ている間も半開きだった目をパチリと大きく開け、うっとりと幸せそうに瀬川の胸元に頬を擦りつけた。

「……おはよ、せがわさん。……ウツボはね、単独でも、生きるけど……ほんとうは、ひとつの狭い岩穴や、パイプの中に、何匹も、ギュウギュウに、密集して重なり合う習性が、あるの。……皮膚が、ぜんぶ、大好きな、せがわさんと、パイプの壁に、くっついてて……わたし、いま、宇宙で、いちばん、しあわせ……」

「し、幸せなら何よりですけど、僕の左腕の血が止まりそうです! あと加湿器の水蒸気がパイプの中にこもってサウナ状態になってます!」

「……むり。……あと、三時間は、このまま、密着してる。……あ、朝ごはん、そこの、バケツに、活きのいい、マダコ、入れてあるから。……あとで、いっしょに、回転して、たべようね」

「朝からタコの丸かじりスピニングは勘弁してくださいぃぃっ!!」

塩ビパイプの狭い入り口から、瀬川の悲痛な叫び声が、湿度九十九パーセントのリビングへと虚しく響き渡った。
ウツボの愛は、深くて、狭くて、少しばかり息苦しい。
こうして、お人好しな商社マンとウツボ美女の、文字通り「密着」した新婚(?)生活が始まったのだった。
瀬川が自らの決断をちょっぴり後悔し始めたのは、言うまでもない。

めでたし、めでたし。

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