天神ビジネス街・第3オフィスビル8階
【全社通達:情報セキュリティ推進課より警告】
近年、社外のフリーメールやSNSを悪用し、社員の心理的な隙を突く「標的型攻撃メール」の被害が急増しています。不審なドメインからの連絡、業務外ツールへの誘導、機密情報の送信要求には絶対に応じず、発見次第ただちにシステム管理部門へ通報してください。
福岡市中央区天神。明治通り沿いにガラス張りのオフィスビルが立ち並ぶビジネス街の一角、地上十二階建てのビル八階に、クラウドソリューション開発企業の営業本部がある。
大きな窓の向こうには那珂川と博多湾へと続く青い空が広がり、フロアにはキーボードを叩く軽快な打鍵音と、クライアント対応に追われる営業マンたちの活気ある声が絶え間なく響いていた。
「ふふん、情報セキュリティ推進課の黒瀬詩織さん? うちの営業第三課を舐めないでくださるかしら」
フロアの中央で、凛とした涼やかな声が響き渡った。
声の主は、社内でも「博多の氷姫」と恐れられ、同時に全社員の憧れの的でもある営業第三課の長──西園寺玲奈課長だ。
腰まで届く艶やかな黒髪を優雅にかき上げ、キリッとした眉を吊り上げて腕を組む姿は、まるで都会のキャリア系ファッション誌の表紙からそのまま飛び出してきたかのように美しい。仕立ての良いネイビーのパンツスーツが、彼女の長身と完璧なプロポーションを際立たせている。
そんな玲奈課長の前に立ちはだかっているのは、セキュリティ推進課の敏腕女性訓練官、黒瀬だった。冷徹な銀縁眼鏡の奥にある細い瞳が、獲物を品定めするように面白そうに細められる。
「ええ、玲奈さん。あなたの率いる営業第三課が九州支社でトップの成績を誇る優秀なチームなのは重々承知していますよ。ですが、今期の抜き打ち標的型攻撃メール訓練は全社義務です。あなたのチームの部下……特に、あそこの彼にも例外なく受けてもらいます」
黒瀬がすっと視線を向けた先には、窓際のデスクでカタカタと真面目にキーボードを叩いている玲奈の部下──入社二年目の若手営業マン、日向蒼太の姿があった。
大型犬のように人懐っこい笑顔と、天神から博多駅まで革靴で全力疾走しそうなほどの底抜けの体力だけが取り柄の、良くも悪くも真っ直ぐすぎる青年である。
「馬鹿にしないでちょうだい。あの子には私が直々に、業務メールの送信元ドメイン確認から不審な添付ファイルの即時破棄、フィッシングサイトの識別手順まで、骨の髄まで徹底的に叩き込んであるのよ。外部ドメインの偽装メールなんて、開くどころか一秒でゴミ箱行きに決まってるわ!」
玲奈課長は自信満々に鼻を鳴らし、美しい顎をツンと上げた。その横顔には、確固たる自信が満ち満ちていた。
(いまどき怪しいフリーメールから送られてくる訓練メールなんて、ドメインを見れば一発で偽物ってわかるでしょ。私が手塩にかけて育てた部下を甘く見ないでよね)
そんな余裕しゃくしゃくの自負が、玲奈課長の誇らしげな表情からアリアリと伝わってくる。実際、玲奈課長の日頃の指導は厳しい。毎月のコンプライアンス研修のミニテストでも、営業第三課は常に全員満点通過を維持していた。
「……そうですか。そこまで仰るなら、少し実戦的なシナリオを試してみましょうか」
黒瀬は口元にフッと不敵な笑みを浮かべると、小脇に抱えていた監視用タブレットを取り出し、画面を軽やかにタップした。
午後二時十五分・送信された偽装メール
黒瀬の白い指先が、仮想キーボードの上を迷いなく滑る。
設定された送信元ドメインは、誰の目に見ても会社のコーポレートドメインとは一ミリも関係のない、胡散臭い外部のフリーメールアドレスだった。
だが、そこに打ち込まれた件名と本文を横から覗き込んだ瞬間──玲奈課長の美しい表情が、ピシリと音を立てて凍りついた。【送信元:reina_secret_love@sweet-clover-pure.jp】【件名:内緒のお願い】【本文:西園寺です。会社の人には内緒で、個人アドレスから送っているの。実は、日向くんのことがずっと前から好きだったの!! 社内ではどうしても言えないから……お願い、今すぐこの個人LINEに登録して!!】
「ちょっ……!? く、黒瀬さん!? な、ななな何を送ってるのよぉぉぉっ!?」
耳の先から首筋までを一瞬で真っ赤に染め上げた玲奈課長が、普段の氷のようなクールさを完全にかなぐり捨てて絶叫した。デスクの天板をバンッと両手で叩き、黒瀬のタブレットへと身を乗り出す。
「な、名前を騙るにしても限度があるでしょ! 語尾にビックリマーク二つって何よ! こんなの業務訓練じゃないわ、ただのセクハラ……じゃなくて、悪質な名誉毀損のイタズラよ! 今すぐ送信を取り消しなさい!」
「いいえ、これはソーシャルエンジニアリングの極めて基本的な手法ですよ、玲奈さん」
黒瀬は少しも動じることなく、涼しい顔で銀縁眼鏡のブリッジを押し上げた。
「人間の心理的な隙──特に恋愛感情や承認欲求、そして普段は厳格な上位権力者からの秘密の接触を突くハニートラップ型フィッシングは、実際のサイバー攻撃でも数多く報告されています。人間は論理ではなく、感情の揺さぶりで判断力を失う生き物ですから。……さあ、あなたのご自慢の部下が、ドメインを確認して冷静にシステム部門へ通報できるか、見ものですね」
「だ、騙されるわけないでしょ! あんなの誰が見たって百パーセント偽物だし、そもそも私がそんなハレンチで頭の悪そうな告白メールなんて送るわけ──」
玲奈課長が言いかけた、まさにその時だった。
ピコン。
静かなオフィスの一角で、黒瀬の手元にあるタブレットから無機質な電子音が鳴り響いた。
訓練メールが日向の端末へ送信されてから、わずか四十秒後のことだった。
監視ダッシュボードの緑色
黒瀬の手元のダッシュボード画面に、鮮やかな緑色のステータス通知が次々と灯っていく。
同時に、タブレットの自動読み上げ機能が、小さな合成音声で無慈悲に状況を通告した。
『ターゲットがメールを開封しました。ターゲットが本文内の外部リンクをクリックしました。ターゲットが誘導先の外部アカウントを友だち追加しました』
「へ……?」
玲奈課長の口から、普段の威厳からは想像もつかないほど間抜けな声が漏れた。
窓際の席を見ると、日向が自分のデスクの下で私用スマートフォンを猛烈な勢いでタップしているのが見える。彼の横顔は、かつてないほど真剣で、かつ異様なほどの熱気に満ちていた。
さらに数秒後。
黒瀬の持つ訓練用ダッシュボードのチャット監視画面に、日向のスマートフォンから送信されたメッセージのプレビューがリアルタイムで流れてきた。【日向蒼太:西園寺課長!? 信じられません……夢みたいです! 実はずっと僕も課長のこと、上司としてだけじゃなく、一人の女性として大好きでした!! 今日このあと、時間空いてますか!?】
「ぎゃあああああああっっっ!?」
フロア中に響き渡るような悲鳴を上げ、玲奈課長はその場に両手で顔を覆ってしゃがみ込んだ。
細い指の隙間から覗く白い肌は、まるで玄界灘で水揚げされて茹で上がったばかりのタコのように真っ赤だ。華奢な肩が、今にも頭頂部から湯気が出そうな勢いでプルプルと激しく震えている。
「うそでしょ……信じられない……! あの子、不審なメールはドメインを見ろってあんなに口を酸っぱくして言ったのに! 四十秒って、本文を読んで疑う時間すら入ってないじゃない! っていうか僕も大好きでしたって何!? えっ、あの子、私のことそんな目で見てたの!? 嘘でしょ、明日からどんな顔して営業同行すればいいのよぉぉぉっ!!」
パニックに陥り、早口でまくし立てながらフロアのカーペットの上でのたうち回る玲奈課長。
周囲の社員たちもキーボードを叩く手を止め、初めて見る「博多の氷姫」の完全融解っぷりに、ただただ呆然と目を丸くするしかなかった。
「あらあら、見事な引っかかりっぷりですね。ですが玲奈さん、訓練はまだ終わりではありませんよ。ここからが本番──機密情報の流出テストです」
サディスティックな光を眼鏡の奥に宿した黒瀬の指先が、偽の西園寺玲奈アカウントを通じて、軽快なリズムでチャットを打ち返していく。【偽・西園寺:私も……ずっと言えなかったから、本当に嬉しい。……あ、そうだ。今度の提案、日向くんの企画を絶対に通したいから、例の新規プロジェクトの企画書ドラフトと、営業部サーバーのアクセスキーをここに送っておいてくれない? 私、今夜ベッドの中でチェックしてあげるから♡】
「ちょっと黒瀬さん! やめなさい! いくらなんでも文章が怪しすぎるわよ! 業務情報を個人のチャットに送るなんて懲戒免職レベルの重大インシデントだし、私は語尾にハートマークなんて絶対に使わないわ! さすがにここで気づいて止まるわよ、あの子だってそこまで馬鹿じゃ──」
ピコン。ピコン。
玲奈課長の必死のフォローを嘲笑うかのように、わずか十秒足らずで連続の着信音が鳴り響いた。
再びタブレットの合成音声が淡々と読み上げる。
『ターゲットから機密ファイルおよび認証テキストが送信されました。全工程のトラップ成約を確認』【日向蒼太:もちろんです課長! 課長のためなら僕、何だってします! 僕の企画書をベッドの中でチェックしてくれるなんて最高すぎます! 今すぐ企画書ドラフトとアクセスキー送りますね♡】【受信ファイル:極秘_次期基幹システム導入案件_企画書ドラフトおよび仕様案.pdf】【受信テキスト:営業第三課共有サーバー 管理者アクセスキー一覧】
「……清々しいほどの即落ちですね。一点の迷いも見られません」
「いやああああああああっっ!! 情報漏洩のフルコースが六十秒で決まっちゃってるううううっ!!」
頭を抱えて床に突っ伏し、羞恥と絶望でのたうち回る美貌の玲奈課長。
その横で、黒瀬は冷酷なまでに冷静な手つきで、タブレットの画面上に表示された日向の評価欄へアクセスした。【訓練結果判定:完全失格(フィッシング誘導・認証情報漏洩・機密ファイル外部送信の三重違反。特別再教育プログラム十時間コース対象)】
無機質な赤い文字が画面に刻印される。
窓際の席では、そんな大惨事が起きているとは露知らず、日向がスマートフォンを愛おしそうに胸に抱きしめ、窓の外の天神の空を見上げて幸せそうにガッツポーズを決めていた。
翌朝、午前九時。
営業第三課のフロアには、かつてないほど奇妙で居心地の悪い空気が流れていた。
「おはようございます、西園寺課長! 今日も博多の朝日が嫉妬するくらいお綺麗ですね! ブラックコーヒー淹れておきました!」
「ひっ……!? お、おは、おはよう、日向くん……あ、ありがとう……っ!」
昨日、黒瀬から「本人への種明かしと個別指導は、直属の上司である玲奈さんから明日中に行ってくださいね」と釘を刺されたものの、日向はまだあれが訓練メールだったことを知らない。
何も知らずに普段通りの涼しい顔を作ろうとして完全に失敗し、日向と目が合うたびに耳まで真っ赤にして決裁書類をばら撒く挙動不審な美人課長と、なぜか朝から自信満々の爽やかな笑顔でコーヒーを差し出してくる若手部下。
(……玲奈さん、怒るどころか完全に意識してしまっていますね)
フロアの入口付近から二人の様子を観察していたセキュリティ推進課の黒瀬は、銀縁眼鏡を指先で押し上げ、手元の管理タブレットに淡々と記録を打ち込んだ。
午後に予定されている個別面談で巻き起こるであろう嵐の予感に、冷徹な訓練官の口元が、わずかに愉悦を帯びて緩むのだった。
遮音パーティションの向こう側
バァン!
午後一時。オフィスフロアの奥にある第2会議室の重厚な防音ドアが、激しい音を立てて閉められた。
続いて、内側からガチャリとサムターン錠が回される硬質な金属音が響く。
ブラインドが完全に下ろされた、逃げ場のない完全な密室。
その中央に置かれた会議テーブルの前で、西園寺玲奈課長は湯気が出そうなほど顔を真っ赤にして、天板を両手でバンッと叩いた。
「な、な、なんであんな見え透いた罠に引っかかったのよ、この大馬鹿者ぉぉぉっ!!!!!!」
普段の「博多の氷姫」と恐れられる冷静沈着なキャリアウーマンぶりはどこへやら。
肩を怒らせ、美しい切れ長の瞳を涙で潤ませながら、喉が千切れんばかりの怒号が狭い個室にこだまする。
「あれだけ普段から言ったでしょ!? メールを受け取ったら、まず最初に送信元のドメインを確認しなさいって! スイート・クローバー・ピュアなんて胡散臭いフリーアドレス、うちの会社のシステムと一ミリも関係ないじゃない! しかも、あんな……あんなはしたない文面で私の名前を騙られてるのに、四十秒で友だち追加して社外秘の企画書とアクセスキーを丸ごと投げるなんて……あなたの情報セキュリティ意識、博多湾の底にでも沈めてきたのぉぉぉっ!?」
玲奈は耳まで熟れた林檎のように真っ赤に染め、肩で息をしながら目の前の部下──日向蒼太を睨みつけた。
直属の上司としてのセキュリティ違反に対する正当な叱責が半分。そして何より、昨日のチャットで日向が送ってきた「一人の女性として大好きでした」という熱烈すぎるメッセージに対する羞恥心が半分。
玲奈の中の感情メーターはすでに針が振り切れており、少しでも気を抜けばその場に卒倒してしまいそうだった。
施錠された第2会議室
だが、こっぴどく叱られて青ざめ、申し訳なさそうに項垂れるかと思われた日向は──違った。
昨日のメールがセキュリティ推進課による抜き打ち訓練だったと告げられた直後こそ、一瞬だけ目を丸くして固まったものの、次の瞬間にはカッと目を見開き、ガタッとパイプ椅子を蹴り倒さんばかりの勢いで立ち上がったのだ。
そして、玲奈の激しい剣幕をものともせず、テーブル越しにぐいっと一歩踏み込んできた。
「課長!! 僕の話も最後まで聞いてくださいッ!!」
「な、何よ!? 言い訳なんて聞く耳持たないわよ! あなたは全社抜き打ち訓練で百点満点中マイナス五百点、悪質なセキュリティインシデントのワースト事例として来月の社内報の一面に名前入りで載るレベルの──」
「じゃあ逆に聞きますけどッ!!」
日向はスーツの胸の前で両拳を固く握りしめ、魂の底から絞り出すような大声で叫んだ。
「もしも……もしもあのメールが、本物の西園寺課長からの告白だったら、どうするつもりだったんですかッ!!!!!!」
「……は、はい?」
あまりにも真剣で、あまりにも斜め上すぎる気迫に押され、玲奈の怒声がピタリと止まる。ポカンと口を開けたまま固まる上司を前に、日向はさらに熱を込めて言葉を継いだ。
「送信元のドメインが違う! フリーメールなのはおかしい! 普段の厳格な課長なら、個人の連絡先で業務ファイルやアクセスキーを求めるはずがない! ……ええ、そんなことは論理的には全部わかってますよ! 課長に毎日隣で厳しく指導されてるんですから、僕の頭では百パーセント怪しいって最初から理解してました!!」
「だ、だったらなんでリンクを踏んだのよ!? 怪しいって頭でわかってたなら、迷わず通報ボタンを押しなさいよ!」
「でも万が一!! コンマ一ミリでも、天文学的な確率だとしてもですよ!?」
日向は会議テーブルに両手をつき、身を乗り出して玲奈の瞳を真っ直ぐに見据えた。その瞳は、信じられないほど澄み切っていて、熱く、一片の濁りもなかった。
「いつも完璧で誰にも弱みを見せない西園寺課長が、真昼間のオフィスでこっそり……社内アドレスじゃ恥ずかしくて送れないからって、わざわざ可愛いクローバーの名前の捨てアドを作って、隣のデスクにいる僕への溢れる想いを必死に抑えきれずに、震える指先で送信ボタンを押してくれたんだとしたらッ!!」
「なっ、ななな、誰が業務中に溢れる想いを抑えきれずに捨てアドで送るですってぇぇぇっ!?」
「そこで僕が、送信元ドメインが異なるためフィッシング詐欺と断定しセキュリティ推進課へ通報の上で当該メールを即時削除しました、なんて冷血なロボットみたいに処理してみせてくださいよ! そんなの、勇気を出してくれた課長の純情をドブに捨てるようなもんじゃないですかぁぁぁッ!!」
「じゅ、純情……!? わ、私の、純情……っ!?」
玲奈の喉が、きゅっと音を立てて詰まった。
普段、社内では「氷姫」「鉄の女課長」と恐れられ、誰も自分の内面の繊細さなど気にも留めないと思っていたのに。目の前の年下の部下が、勝手に自分の「震える手で恋文を送るいじらしい姿」を全力で想像し、それを傷つけまいとして暴走したという事実が、予想外の角度から玲奈の胸を直撃したのだ。
沸騰する脳内回路
「いいですか課長! 僕にとっては、あのメールがハッカーの罠かもしれないリスクより、万が一にも本物だった時に課長の恋心を踏みにじるリスクのほうが、一億倍重大なインシデントなんです!!」
日向の熱弁は止まらない。もはや社内規定も情報セキュリティハンドブックも、彼の燃え盛る情熱の前には無力な紙切れ同然だった。
「ずっと憧れていた大好きな女性から、企画を絶対に通したいからって企画書ドラフトとアクセスキーを頼まれて、ベッドの中でチェックしてあげる♡なんて言われて、そこでコンプライアンス規定を読み上げる男がどこの世界にいますか!? もしあそこで僕が疑ってスルーして、翌朝オフィスに来た課長が、なんだ日向くんは私のこと本気じゃなかったんだって陰でこっそり泣いてたらと思うと、僕の人生そのものがシステム障害でサービス終了ですよッ!!」
「ちょ、ちょっと待ちなさい! 話の次元が違いすぎるわよ! コンプライアンス! 機密情報の保持義務! 企業の社会的信用はどうなるのよ!!」
「知るかそんなもん、愛の前にはすべて誤差ですッ!!」
日向は胸を張り、一点の曇りもない眩しい笑顔で言い切った。
「たとえハッカーに騙されて情報漏洩で会社をクビになっても、僕は西園寺玲奈という一人の女性の運命共同体になる道を選んだんです! 後悔は一ミリもありませんッ!!!」
「ぎゃあああああああああああっっっ!!!!!」
論理百パーセントで部下の過失を詰めようとしたはずが、純度千パーセントの熱烈な好意と狂気のロマンチシズムの濁流で正面から殴り返され、玲奈の脳内キャパシティは完全に限界を迎えた。
プシューーーッ!
本当に頭のてっぺんから白い蒸気が噴き出す音が聞こえるほど、玲奈の顔が真っ赤に紅潮する。
(情報セキュリティの基本手順と再発防止策)を冷静に説くはずだった彼女の脳内CPUは完全に熱暴走を起こし、ぐるぐると回る視界の中で(課長の純情)(愛の前には誤差)(運命共同体)(一人の女性として大好き)というパワーワードが、中洲の歓楽街のネオンサインのように激しく明滅した。
「も、もう無理……! わかんない……! なんなのこの子……っ、どこの世界にフィッシング詐欺に引っかかった言い訳で上司にプロポーズみたいな熱弁振るう部下がいるのよぉぉぉっ!!」
ガクガクと膝から崩れ落ち、椅子に座り込んだまま両手で耳を塞いで会議テーブルに突っ伏す玲奈。
艶やかな黒髪の隙間から覗く耳たぶは、今にも火傷しそうなほど熱を持っている。
「だ、第一……っ! 私が、そんな……あ、あんな頭の悪そうな文面で、語尾にハートマークまでつけて告白なんて……す、するわけないでしょうが……っ」
テーブルに額を押し付けたまま、消え入りそうな声で呟く玲奈。
すると、日向がパッと顔を輝かせ、テーブル越しに身を乗り出して尋ねてきた。
「えっ!? じゃあ、本物の西園寺課長が僕に告白してくれる時は、どんな文面で送ってくれるんですか!?」
「そこじゃないぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!!!!」
玲奈の魂の絶叫が、防音仕様のはずの第2会議室のガラス窓をビリビリと震わせた。
その頃、会議室の外の廊下では。
たまたま別の部署のセキュリティ監査を終えて通りかかった黒瀬が、ドアの隙間からわずかに漏れてくる阿鼻叫喚のやり取りを聞き届け、銀縁眼鏡の奥の瞳を細めていた。
「……論理的防御壁を正面から粉砕する感情のオーバーフロー。実に興味深い行動心理学のサンプルですね」
黒瀬は手元の電子手帳にサラサラと何かをメモすると、満足そうに頷いて静かにその場を立ち去るのだった。
最上階・エグゼクティブフロア
翌日、午前十時。
オフィスビルの最上階である十二階、役員フロアの最奥に位置する社長室には、重苦しい静寂が満ちていた。
博多湾から志賀島までを一望できる巨大なパノラマウィンドウの前、重厚なイタリア製の革張りソファに腰掛けているのは、このIT企業をわずか十年で九州トップクラスへと急成長させた敏腕女性トップ──神代麗子社長だった。
オーダーメイドのワインレッドのスーツを隙なく着こなし、知的な光を湛えた瞳で、向かいに座るセキュリティ推進課の黒瀬を見据えている。
そして黒瀬の隣には、なぜか今にも消え入りそうな顔で足元のペルシャ絨毯を見つめ、耳まで真っ赤にしたまま借りてきた猫のように小さくなっている西園寺玲奈課長の姿があった。
「──それで、黒瀬さん。一昨日、我が社の花形である営業第三課で、極めて特異かつ重大なセキュリティ訓練インシデントが発生したと聞いたけれど?」
神代社長は美しくマニキュアの塗られた指を組み、静かに口を開いた。その声音は極めて穏やかで、幾多の修羅場を潜り抜けてきた経営者としての深い度量に満ちている。
「本題に入る前に、まず私の経営者としてのスタンスを前置きしておきます。西園寺くん、そんなに萎縮しなくていいわよ。私はね、訓練で失敗したからといって特定の個人を感情的に責めるつもりは毛頭ないの」
「しゃ、社長……」
玲奈が恐る恐る顔を上げる。神代社長は優しげな微笑みを浮かべ、ゆったりと頷いた。
「ヒューマンエラーというものは、人間である以上、誰しもが必ず冒すものよ。それを個人の注意力や精神論に頼るのではなく、二段階認証やアクセス権限の分離といったルール、すなわち組織の仕組みで防ぐのが近代的な企業のあり方です。現場の社員を吊るし上げて晒し者にするような真似は、私のポリシーに反するわ」
「素晴らしいご理解とご見識です、神代社長」
黒瀬は表情一つ変えずに深々と一礼し、手元のタブレット端末を起動してローテーブルの中央にある大型モニターへと画面を投影した。
社長室の革張りソファ
「では、一昨日の標的型攻撃メール訓練における通信ログと、昨日実施された西園寺課長による個別ヒアリングの全容をご報告いたします」
「ええ、聞かせてちょうだい。営業第三課といえば社内でもトップの成績を誇る精鋭チームよ。そこが突破されたということは、よほど巧妙な最新のサイバー攻撃手法を使ったのかしら?」
神代社長が興味深そうに身を乗り出す。
隣で、玲奈が「あ……うぅ……」と小さなうめき声を漏らし、再び顔を両手で覆った。
「まず、一昨日の午後二時十五分、営業第三課の日向蒼太社員宛に訓練用フィッシングメールを送信しました。送信元は明らかな外部フリーメールドメイン。件名は、内緒のお願い。本文は以下の通りです」
黒瀬がタブレットをタップすると、大型モニターに一昨日の文面がデカデカと映し出された。【西園寺です。会社の人には内緒で、個人アドレスから送っているの。実は、日向くんのことがずっと前から好きだったの!! 社内ではどうしても言えないから……お願い、今すぐこの個人LINEに登録して!!】
ピクリ、と神代社長の整った眉が跳ねた。
「……え? これ、西園寺くんの名前よね? ずいぶんとまた、稚拙というか……いにしえの迷惑メールみたいな文面ね」
「はい。しかし標的となった日向社員は、メール受信からわずか四十秒で本文内の偽リンクを踏み、即座に外部アカウントの友だち追加を完了しました。その際、日向社員から真っ先に送信されたメッセージがこちらです」
モニターの画面が切り替わる。【日向蒼太:西園寺課長!? 信じられません……夢みたいです! 実はずっと僕も課長のこと、上司としてだけじゃなく、一人の女性として大好きでした!! 今日このあと、時間空いてますか!?】
ピキ、と神代社長の優雅な笑顔がわずかに硬直した。
隣のソファでは、玲奈がすでにベルベットのクッションに顔を埋めて、小動物のようにプルプルと震えている。
「さらに、訓練官である私が偽アカウントを操作し、日向社員の企画を通したいからと称して新規プロジェクトの企画書ドラフトと営業部サーバーのアクセスキーを送って、今夜ベッドの中でチェックしてあげるから、と要求したところ──」
「ちょっと待って、黒瀬さん。あなたも大概にしなさいよ、何よそのベッドの中でチェックしてあげるって」
「ハニートラップの強度テストです。結果、日向社員は一切の躊躇なく、十秒後に、ベッドの中でチェックしてくれるなんて最高すぎます、との返信とともに、社外秘の企画書ドラフトPDFおよび営業部サーバーのアクセスキーを外部へ送信しました」
「……」
神代社長の口から、完全に言葉が消えた。
「なお、昨日の午後に行われた個別指導において、西園寺課長がドメイン確認の不徹底および重大な情報漏洩について厳しく叱責したところ、日向社員は猛然と反論しました」
黒瀬は淡々としたニュースキャスターのような口調で、手元の記録を読み上げていく。
「日向社員の主張を要約しますと、論理的には百パーセント怪しいと理解していた、しかし万が一にも西園寺課長が業務中に溢れる想いを抑えきれなくなり、捨てアドを作って隣の席から震える手で想いを伝えてくれた可能性がコンマ一ミリでもあるなら、スルーして課長の純情を傷つけるわけにはいかなかった、ハッカーに騙されて会社をクビになるリスクなど愛の前には誤差である、自分は情報セキュリティよりも西園寺玲奈の運命共同体になる道を選んだ、とのことです。これに対し、西園寺課長は論理的な反論が一切できず、脳内処理がキャパシティオーバーを起こして指導を中断、現在に至ります。以上が報告です」
社長室を、かつてないほどの超高濃度の沈黙が支配した。
「……」
「……」
空調のわずかな風切り音だけが、やけに大きく耳につく。
玲奈は完全に魂が抜けたようにクッションを抱きしめて項垂れ、社長の顔を直視できずに震えている。
一方の神代社長は、組んでいた指をゆっくりと解き、こめかみに手を当てて一度深く目を閉じた。
数分前まで高らかに語っていた(個人を責める気はない)(ヒューマンエラーはすべて組織の仕組みで解決すべき)という高潔でモダンな経営哲学が、ガラガラと音を立てて崩壊していくのが目に見えるようだった。
長い、あまりにも長い十秒間の静寂ののち。
神代社長はカッと目を見開き、魂の抜けた玲奈と涼しい顔の黒瀬を交互に見つめて──低く、乾ききった声でポツリと漏らした。
「……システムの仕組みでどうにかできる次元じゃないわよ、この大馬鹿共がっ!!」
「「ひぃっ!?」」
「いいこと、西園寺くん!? システム部門にファイアウォールの設定を変更させる前に、まずあなたのその、部下にワンチャンあるかもしれないと変な妄想を抱かせる隙だらけの態度をどうにかしなさい! セキュリティホールは社内サーバーじゃなくて、あんたたち二人の距離感にあるのよ! 原因を作ったのは直属の上司であるあなたなんだから、今日中に責任を持って、物理的にキッチリとケジメをつけなさい! わかったわね!?」
「は、はいぃぃぃっ!! 申し訳ございませんでしたぁぁぁっ!!」
かくして、創業以来初となる「色恋沙汰によるセキュリティシステム完全崩壊事案」は、社長直々のトップダウン命令によって、玲奈自身の手で収束を図ることとなったのである。
再びの第2会議室
社長室を文字通り追い出された直後の記憶が、玲奈の頭の中で恐ろしい呪いのようにリフレインしていた。
(原因を作ったのはあなたなんだから、今日中に責任を持って物理的にキッチリとケジメをつけなさい……!)
あまりにも理不尽すぎる業務命令だ。自分はただ、毎日厳しく、かつ丁寧に日向へ営業のイロハとセキュリティの基礎を教えていただけなのに。残業中に差し入れの博多通りもんを一つ分けてあげたことや、雨の日に傘を貸してあげたことが、まさかこんな巨大なセキュリティホールに繋がっていたとは夢にも思わなかった。
けれど、あの場でこれ以上何かを言い返せば、神代社長の冷徹な鉄槌が営業第三課ごと粉砕し、来期の予算まで凍結されかねないほどの凄まじい剣幕だった。
そして──時刻は午後五時。定時直前の、再びの第2会議室。
カチャリ。
内側からドアの鍵を閉める音が、今の玲奈にはまるで自らの退路を断つ処刑台の合図のように重く響いた。
振り返ると、会議テーブルの向こう側には、昨日と寸分違わぬ姿勢で背筋を伸ばした日向蒼太が座っている。
「西園寺課長、二日連続で密室へのお呼び出しですね!? 昨日の今日で、今度はどんな厳しいお説教……いえ、どんな愛の試練を僕に与えてくださるんでしょうか!」
目の前の部下は、昨日あれだけ怒鳴られたというのに懲りる様子も一切なく、むしろご主人様に褒められるのを待つ大型犬のように目をキラキラと輝かせている。もし彼のお尻に尻尾が生えていたら、今頃ちぎれんばかりの速度で左右に振られていたに違いない。
その底抜けに真っ直ぐで熱っぽい視線が、今の玲奈には直視できないほどの痛烈な劇薬だった。
「……だ、黙って、私の言うことだけを聞きなさい」
玲奈は精一杯の威厳をかき集めて背筋をピンと伸ばし、震える指先でジャケットの胸ポケットに手を入れた。
そこから取り出したのは、小さく綺麗に四つ折りにされた一枚の白いメモ用紙だった。
声がかすかに震えている。
俯き加減の玲奈の顔は、まだ何も言っていないうちから、すでに耳の先から首筋、果ては鎖骨のあたりまで、茹でたてのロブスターのように真っ赤に染まっていた。
「こ、今回のインシデントの根本的な原因を……わ、私なりに、徹底的に分析したわ」
「はいっ! 課長の分析、謹んで拝聴します!」
「だから声が大きいのよ! いいこと、あなたが、もし本物の課長からのメールだったら、なんていう天文学的な確率のバカげた妄想に縋ったせいで、一昨日のあの大惨事は起きたのよ」
「はい! 課長を愛するがあまりの、情状酌量の余地しかない判断ミスでした!」
「うるさい! いちいち肯定的な合いの手を挟むんじゃないわよ!」
玲奈はギュッと唇を噛み締め、大きく深呼吸を一つすると、会議テーブルの上に身を乗り出した。
そして、震える右手でその四つ折りのメモ用紙を──バシィィィッ!と音を立てて、日向の目の前へ叩きつけた。
四つ折りのメモ用紙
「だ、だから……! あなたが二度とあんなちゃちな偽物のメールに騙されないための、組織的かつ物理的な最終防衛手段を講じることにしたわ……っ!」
「最終防衛手段……? これは、何ですか?」
日向が不思議そうに目を瞬かせながら、テーブルの上のメモ用紙をそっと開いた。
そこには、玲奈の几帳面で美しい万年筆の筆跡で、プライベートの携帯電話番号、個人のLINEアカウントのID、そして私用のメールアドレスがびっしりと丁寧に書かれていた。
玲奈は顔から本当に火が出るんじゃないかという勢いで紅潮させ、両手で自分の熱い頬をぎゅっと押さえながら、潤んだ涙目で日向を睨みつけた。
「い、いい……!? よく聞きなさいよ! そこに書いてあるのが、私の、正真正銘の本物の個人連絡先よ……っ!」
「えっ……!? ほ、本物の、西園寺課長のプライベートアカウント……!?」
「そ、そうよ! これからは二度と、そこに書いてあるアドレスやID以外の怪しい連絡先からメッセージが来ても、絶対に信じるんじゃないわよ! もし万が一、また私を名乗る不審なメールやSNSの誘いが届いたら、リンクを踏む前に、即座にこの本物のアカウントに直接連絡して本人確認を取りなさい! わかったわね!?」
それは、情報セキュリティの世界で言うところの「事前共有情報による別経路認証(アウトオブバンド認証)」──という専門用語を盾にした、ただの個人連絡先の交換だった。
日向は、メモ用紙に書かれた美しい文字列と、今にも恥ずかしさで爆発してしまいそうな美貌の上司の真っ赤な顔を、何度も交互に見つめた。
一秒。二秒。三秒。
狭い会議室に、息を呑むような静寂が落ちる。
そして──その「最終防衛手段」が意味する事実を完全に理解した瞬間、日向蒼太の表情が、かつてないほどの歓喜で爆発した。
「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!」
ガタァンッ!とパイプ椅子を後ろへ跳ね飛ばし、日向が天井に頭が届きそうなほど高く跳び上がった。
「西園寺課長の本物のプライベート連絡先ゲットォォォォォォッ!! 偽物じゃない、正真正銘の本物だ! 僕と課長だけの、完全なるオフィシャル直通ホットラインが開通したぁぁぁぁっ!!」
「ちょ、ちょっと! 大声で喜びなさんな! 違うって言ってるでしょ、これはあくまで情報セキュリティ対策の一環! インシデントを未然に防ぐための、ただの緊急連絡プロトコルなんだからねっ!?」
「わかります、わかりますよ課長! 普段はクールな課長が、僕と連絡先を交換するためにセキュリティ対策っていう完璧な口実を一生懸命考えてくれたんですよね!? しかも手書きのメモなんて、可愛すぎて僕、家宝にして額縁に入れて飾ります!!」
「ち、違うわよぉぉぉっ!! 社長にケジメをつけろって怒られたから仕方なく……って、メモを額縁に入れるんじゃないわよ、個人情報の適切な保管義務に違反してるでしょ!!」
玲奈が涙目で必死にツッコミを入れるものの、すでに日向は自分のスマートフォンを光の速さで取り出し、メモのIDを検索して友だち追加を完了させていた。
「課長! 回線が正常に機能するか、早速疎通確認のテスト送信を行いますね! 件名は愛の死活監視テスト、本文は、今日も世界一お綺麗です、今夜天神の屋台か大名のお洒落なバルで空いてますか、って送っていいですか!?」
ピコン♪
玲奈のジャケットのポケットの中で、私用スマートフォンが可愛らしい着信音を鳴らした。
宣言通り、一秒のラグもなくテストメッセージが着弾したのだ。
「ぎゃあっ!? もう送ってきた!? ちょっと日向くん、業務外の私的な通信はプロトコル違反よぉぉぉっ!! だいたい、誰が今夜空いてるなんて言ったのよ、このバカァッ!!」
「えっ、じゃあ今夜はダメですか!? なら明日の金曜日は!? 明後日の土曜日はどうですか!? 中洲の夜景が見えるレストラン予約していいですか!?」
「き、聞いてない! 私の話を聞きなさいってばぁぁぁっ! 金曜日も土曜日も……その、週末のスケジュールを確認してからじゃないと、承認できないわよ……っ!」
「それって実質予約オッケーってことですよね!? よっしゃあああ、営業第三課に配属されて人生最高のセキュリティ訓練だったぁぁぁっ!!」
「もう黙りなさいぃぃぃぃぃっ!!」
真っ赤な顔で机を叩きながら怒鳴る玲奈と、スマホを握りしめて歓喜の舞を踊る日向。
密室の中は、昨日以上の大騒ぎとなった。
その頃、第2会議室の外の廊下では。
通りかかったセキュリティ推進課の黒瀬が、防音ドアの隙間から漏れてくる賑やかな怒号と歓声を耳にして足を止めていた。
黒瀬は銀縁眼鏡の位置をクッと押し上げると、満足そうに手元の管理タブレットの画面を閉じた。【事案ステータス:対処完了(アウトオブバンド認証の導入により、対象者の脆弱性を完全に解消)】
「……攻撃対象の心理的脆弱性を埋めるための、もっとも確実で強固な個別対策ですね。本物のホットラインが開通した以上、これで彼が外部の偽メールに引っかかる確率は完全にゼロになりました」
黒瀬はかすかに口角を上げると、ヒールを鳴らして颯爽と廊下を歩き去っていった。
標的型攻撃メール訓練、これにて完全解決。
営業第三課の情報セキュリティ意識が向上したのか、それとも上司と部下の間の別の何かが大きく前進したのかは定かではないが──夕暮れの光が差し込む福岡のオフィスには、今日も平和で騒がしい愛の通信ログが飛び交っているのであった。
めでたし、めでたし。
