照準器越しの片想い設計図
裏社会において、コードネーム『スノー・オウル(雪梟)』の名を知らぬ者はいない。
風速、湿度、気圧、さらには地球の自転によるコリオリの力までをも瞬時に脳内で演算し、一キロメートル先の標的を寸分の狂いもなく撃ち抜く孤高の天才女スナイパー。
それが私──冬月玲奈、二十四歳である。
これまで数多の標的を葬り去ってきた私の冷徹なる心臓は今、北海道枝幸郡中頓別町のカラマツ林の中で、かつてない危機的状況に晒されていた。
ドクン、ドクン、ドクン……!
胸の奥で鳴り響く心音が、防寒ギリースーツの内側を熱い蒸気で満たしていく。
私は狙撃ポイントの落ち葉の上で腹ばいになり、愛用のボルトアクションライフルの照準器を食い入るように覗き込んでいた。
倍率十六倍の十字線の中央に捉えているのは、町外れに建つ三角屋根の古い木造倉庫を改装した『一級建築士事務所・北極星』の大きな窓辺だ。
そこに、私の暗殺ターゲットである男──一級建築士の佐伯蒼真、二十八歳が立っている。
『……っ、今日も……今日もなんて完璧な横顔なの……!』
スコープの向こうで、佐伯は製図板に広げた図面に視線を落とし、黒縁の眼鏡を指先でくいっと押し上げた。
窓から差し込む北国の澄んだ朝の光が、少し癖のある黒髪と、真剣に細められた切れ長の瞳を美しく照らし出している。やがて彼は「よし」と小さく呟くと、眼鏡を外して目頭を揉み、ふっと柔らかい笑みを浮かべてマグカップの珈琲を口にした。
『あぁっ……! 眼鏡を外した瞬間のギャップ、犯罪的すぎる……! 今のは実質、私に対する精神的狙撃じゃないの!?』
私はスコープから目を離し、真っ赤になった両頬を押さえてカラマツの根元でごろごろと悶絶した。
どうしてこんなことになってしまったのか。発端は二週間前に舞い込んだ暗殺依頼だった。
札幌の大手リゾート開発企業が道北で進めていた大型複合施設の建設において、第三者機関の構造監査を担当したのが佐伯蒼真だった。彼は並外れた洞察力と誠実な職業倫理によって、耐震偽装の決定的証拠を突き止めてしまったのだ。
悪徳重役たちは「奴を始末し、データを奪え」と、裏社会最高峰の狙撃手である私を雇ったのである。
本来なら、中頓別町に到着した初日に仕事は完了しているはずだった。
だが最初の日、スコープを覗いた瞬間、私はトリガーにかけた指を凍りつかせることになった。
事務所の前で、近所のおばあちゃんが手押し車の車輪を側溝に落として困っていた。すると中から飛び出してきた佐伯が、腰に巻尺を下げたまま駆け寄り、手押し車を持ち上げたのだ。さらに彼は車輪の歪みをその場で見抜いて工具箱で鮮やかに修理し、おばあちゃんが差し出した飴玉を貰って、太陽みたいに爽やかに笑ったのである。
その笑顔を倍率十六倍のレンズで直視した瞬間、私の脳天に目に見えない超音速の弾丸が着弾した。
『な、なにこの人……! 裏社会の汚い大人しか見てこなかった私の目に、眩しすぎるんですけど……!』
それからの二週間は、プロの殺し屋としては前代未聞の「言い訳」の連続だった。
二日目。『今日は風速が秒速三メートルもあるわ。弾道がブレて彼の大切な建築模型に当たったら申し訳ないから見送り!』
五日目。『あ、新しい杢グレーのセーター着てる。すごく似合う……。今撃ったら素敵なセーターが赤く染まっちゃうから見送り!』
そして十四日目の今日。『昨日は遅くまで構造計算書を書いてて寝不足みたい。寝不足の相手を撃つなんて騎士道に反するわよね。今日も監視(鑑賞)だけにしておきましょう!』
手元のメモ帳には、『蒼真さんの好きな珈琲:マンデリン』『集中するとシャーペンを回す癖あり(可愛い)』『昨日の夕飯はロールキャベツ(エプロン姿、特A級に尊い)』といった、ただの恋する乙女の観察日記がびっしりと書き連ねられていた。
その時、私のミリタリーウォッチの液晶画面が点滅し、暗号化メッセージを受信した。[警告:作戦期限超過。本日1500時までに完遂なき場合、契約を破棄し『清掃部隊』を投入する]
『……っ、清掃部隊ですって!?』
ブローカーが抱える『清掃部隊』は、手段を選ばぬ重武装の荒事屋集団だ。私がグズグズしているせいで、事務所ごと蒼真さんが物理的に破壊されてしまう。
『ど、どうしよう……! 私が撃つなんて絶対無理だけど、他の連中に蒼真さんの指一本触れさせるわけにはいかないわ……!』
徹夜で彼の夜食姿を観察していた疲れと、秋の終わりのポカポカとした日差し、そして頭を悩ませる葛藤が重なり、私の意識はいつしか、ふわふわと甘い微睡みの中へと落ちていった。
レンズの向こうから歩いてきた標的
どれくらい眠ってしまっていただろうか。
鼻先をくすぐる芳醇なマンデリン珈琲の香りに、私の意識はゆっくりと浮上した。
『……んぅ……蒼真さんが淹れてくれた珈琲の夢……?』
まぶたをうっすらと開ける。すぐ目の前に、綺麗に手入れされた革靴と、ベージュのステンカラーコートの裾があった。
視線を上へ持ち上げると、木漏れ日を背負って、黒縁眼鏡の奥の優しげな瞳が至近距離から私を覗き込んでいた。手には湯気の立つボトルと紙コップ、そして大判のウールブランケットまで抱えている。
「あ、起きた。よかった、熟睡されてたから、低体温症になってるんじゃないかと心配したんですよ」
「…………へ?」
時が止まった。いつも四百五十メートル先のレンズ越しにしか存在しなかったはずの人が、すぐ目の前に立っている。
「ひゃあぁぁぁぁっ!?」
私は奇声をあげて仰向けにひっくり返り、後ずさりしようとしてギリースーツの裾に足を絡ませ、落ち葉の上で派手にすっ転んだ。
「わっ、危ない! 大丈夫ですか!?」
蒼真さんが慌てて膝をつき、私の肩を支える。その大きな手が触れた瞬間、全身に百万ボルトの電流が駆け抜けた。
ドクンドクンドクンドクンッ!!
「ち、ち、近いですっ! 半径五メートル以内に入らないでくださいっ、心臓が爆発しますからぁっ!」
「えっ、心臓!? やっぱり冷えすぎて循環器系に負担が……! ほら、これ掛けてください!」
蒼真さんは迷うことなく、ウールブランケットを私の頭からすっぽりと被せて優しく包み込んでくれた。ブランケットから彼自身の温かい体温が染み出してくる。
「あ、あの……! どうしてここが分かったんですか……!? カモフラージュも完璧だったはずなのに……!」
「いやあ、僕は一級建築士なもので、建物の採光や周囲の景観との視線誘導を確認するために、毎日双眼鏡で山林をチェックする習慣があるんです。そうしたら二週間前くらいから、北東の防風林の日当たりと風除けが一番いい一等地──建築的に言えば『微気候の最適解』のポイントに、大口径の反射防止レンズがずっとあるなあって気づきまして」
『マ、微気候の最適解……!? 私の完璧な狙撃ポイントを、建築の立地条件みたいに言わないでーっ!』
「毎日熱心にこちらの建物を覗いていらっしゃるから、古い木造倉庫の改修事例を調査している学生さんか、測量士の方かなと思っていたんです。その二脚付きの立派な機材も、最新のレーザー測量機か超望遠カメラですよね?」
蒼真さんが感心したように指差したのは、二脚を立てた私の対人狙撃銃だった。サプレッサー付きの銃身を、彼は一点の疑いもなく測量機材だと思い込んでいるらしい。
「そ、そうです! 私は通りすがりのフリーランス測量士で、あなたの……じゃなくて、あの建物の構造的魅力に惹かれて毎日計測を……!」
「やっぱり! あの倉庫、昭和初期のトラス構造がそのまま残っていて、梁の組み方が本当に美しいんですよ。よかったらこれ、淹れたての珈琲です。温まってください」
手渡された紙コップの温もりが、冷えた指先から胸の奥へと広がっていく。いつもスコープ越しに見ていた珈琲を彼の目の前で飲んでいる事実だけで、幸せの涙がこぼれそうになった。
「……おいひいです……。あ、あの……見ず知らずの私に、こんなによくしていただいて……」
「いえいえ。外は冷えますし、うちの事務所に来ませんか? トラス構造の図面もお見せできますし、薪ストーブも焚いていますから」
「えっ……事務所に、私が……!?」
本来なら彼を暗殺しに来た殺し屋なのに、ターゲット本人から優しく招かれている。私の理性は、彼の笑顔の前に白旗を掲げて完全降伏していた。
「……い、行きます! 測量機材をケースにしまいますから、ちょっと待っててください……!」
私が慌ててライフルをガンケースに収納し、蒼真さんと並んで防風林を抜けて事務所の敷地裏手まで歩いてきた──まさにその時だった。
静寂を裂く黒塗りの来訪者
キュルルルル──ッ、ガガガッ!
静かな山あいに荒々しいタイヤのスキール音が響き渡った。事務所前の砂利道に、黒塗りの大型SUVが三台、土煙を上げて強引に停車したところだった。警告の『1500時』よりも一時間以上早い。
『……っ! 清掃部隊! あのブローカー、私の作戦放棄を見越して、最初から近くに部隊を待機させていたんだわ……!』
ドアが開き、黒いタクティカルジャケットを着た屈強な男たちが十人近く降りてきた。手にはサブマシンガンやバールが握られている。
「あれは……札幌の『黒崎デベロップメント』の連中……!? それに、手にしてるのは……!?」
蒼真さんが息を呑み、瞬時に私を背後に庇うように一歩前へ出た。自分が一番狙われているはずなのに、初めて会ったばかりの私を真っ先に守ろうとするその広い背中に、胸がキュウッと強く締めつけられる。
その瞬間、私の瞳から恋する乙女の熱がすうっと引き、絶対零度の『スノー・オウル』の眼光が宿った。
「おい、ターゲットが外にいるぞ! 横にいる女は『スノー・オウル』か!? クソッ、裏切りやがったな! 二人まとめて蜂の巣にしろ!」
ダダダダダッ!!
乾いた連射音とともにカラマツの幹が弾け飛ぶ。私はとっさに蒼真さんの腰を抱きかかえ、近くの窪地へと転がり込んだ。結果として蒼真さんの上に馬乗りになる格好になり、鼻先が触れそうな距離でピタリと止まる。
「あ、あの……君、いま物凄い動きで僕を抱えて飛びましたよね……!?」
「そ、それは測量で足腰が鍛えられているからですっ! ひゃっ、やっぱりお顔が近すぎますぅっ!」
顔面を沸騰させながらも、私は素早くガンケースからライフルを取り出し、流れるような所作で初弾を薬室へと装填した。
「……まさかそれ、本物の銃ですか!?」
「うぅ……ごめんなさい! 私、冬月玲奈といいます。本当はあなたを暗殺するために雇われたスナイパーなんです! でもっ、毎日スコープで蒼真さんのことを見ていたら、あなたがどれだけ誠実にお仕事をしていて、町の人や建物を愛しているか分かってしまって……! 好きになっちゃったから、どうしても撃てなかったんです! だから、あの連中から私が絶対にあなたを守ります!」
ギュッと目を閉じて決死の告白をまくし立てると、蒼真さんは怯えるどころか、感極まったように眼鏡の奥の瞳を輝かせていた。
「……そうだったんですか。道理で、あの防風林から感じる視線が、殺気ではなくて温かい陽だまりみたいだったわけだ。僕の方こそ、毎日見守ってくれているあなたが気になって仕方なかったんです!」
蒼真さんは内ポケットから『北極星』事務所および周辺敷地の改修平面図を取り出し、地面にバッと広げた。
「ここは僕が設計・改修したフィールドです。木の枝一本、壁の厚み一ミリ、梁の耐荷重まで、すべて僕の頭の中に入っています。あなたの『正確に射抜く技術』と、僕の『一級建築士としての構造知識』を合わせれば、一人も殺さずに全員無力化できます。──共同設計、お願いできますか?」
「……はいっ! 私の全弾、蒼真さんの設計図通りに撃ち込んでみせます!」
一級建築士と白梟の共同施工
「まず正面の三人! 彼らの頭上にある枯れたエゾマツの枝を見てください。破断寸前の枝を支える『片持ち梁』の状態です。根元から二十センチ右の節──あそこが構造上の応力集中点です!」
「了解、二十センチ右の節ですね!」
距離八十メートル。蒼真さんの指し示した一点が、光り輝くターゲットマーカーのように見えた。
パァンッ!
放たれた一発の弾丸が、エゾマツの枝の節を寸分の狂いもなく貫く。
バキバキバキッ──ドサァッ!!
大量の枯れ枝とツル植物が網のように落下し、下を歩いていた三人の黒服たちを頭から押し潰して絡め取った。
「すごい、計算通りの崩壊挙動だ……! 残る七人は事務所へ回り込もうとしています。旧天北線の排水暗渠跡を使えば、死角を通って裏口から建物へ先回りできます!」
私たちは暗渠跡の溝を通って事務所の裏口へと滑り込んだ。走る途中、私の手を蒼真さんがギュッと力強く握って引いてくれた感触に、またしても胸が跳ねる。
ガシャンッ!
正面玄関のガラスがバールで叩き割られ、リーダー格を含む七人の男たちが雪崩れ込んできた。
「逃げ場はねえぞ! どこかに隠れているはずだ、見つけ出してハチの巣にしてやれ!」
男たちが銃を構えた瞬間、蒼真さんが私の耳元で素早く囁いた。
「玲奈さん、天井トラスの鉄ピンです! 四百キロの集成材を落とせば、真下の浮き床構造が跳ね上がって奴らの足元を奪えます!」
『な、なんて緻密で瞬発的な設計判断なの……! さすが私が惚れた一級建築士だわ!』
私は立ち上がりざま、ほぼノールックで天井の暗がりへと銃口を跳ね上げた。
カンッ──ドゴォォォンッ!!
火花が散って鉄ピンが弾け飛び、四百キロの集成材の束が黒服たちのど真ん中へと落下した。凄まじい轟音とともに浮き床構造が爆発的に跳ね上がり、床板が弾かれたように一気に突き上がる。
「ぐわああああっ!?」
凄まじい突き上げをモロに食らった五人の黒服たちは、まるで木の葉のように宙へと一気に吹き飛ばされ、壁や柱に叩きつけられてそのまま気絶した。
だが、入り口付近にいたリーダー格の大男と側近の二人だけは、間一髪で衝撃圏外へ飛び退いていた。
「く、クソがぁっ!」
リーダー格と側近は咄嗟に頑丈な作業台の陰へと身を隠した。こちらの位置からは遮蔽物に阻まれて直接狙うことができない。
「玲奈さん、あそこを撃ってください!」
蒼真さんが素早く壁のくぼみを指差した。
「了解っ!」
私は瞬時にライフルを構え、示された珪藻土壁のくぼみ──音響の焦点へと引き金を引いた。放たれた銃弾は寸分の狂いもなくその中心へと着弾する。
ズギィィィンッ──キィィィンッ!!
珪藻土の曲面壁に着弾した凄まじい衝撃音がパラボラ構造で何十倍にも増幅・収束し、指向性を持った強烈な音波となって遮蔽物の裏へと回り込み、二人の鼓膜を直撃した。
「ぎゃあぁぁっ……!?」
二人は耳を押さえて銃を取り落とし、凄まじい音圧に脳を揺さぶられて、そのまま床へ崩れ落ちて気絶した。
マイナス五度の防風林から、薪ストーブの隣へ
三十分後、通報を受けた道警のパトカーが到着し、気絶した主犯格たちをはじめ『清掃部隊』は全員逮捕された。リーダー格の端末から札幌の悪徳デベロッパー重役からの指示メールや耐震偽装の隠蔽データもすべて押収され、依頼主たちもその日のうちに一斉摘発されることが決まったという。
私のライフルは蒼真さんが警察到着前に床下の点検口へと素早く隠してくれ、私自身は「測量調査中に偶然居合わせ、建物の構造を利用して暴漢撃退に協力した市民」として、無事にお咎めなしで解放された。
夕暮れ時。ピンネシリ岳の向こうに茜色の夕日が沈む頃。
割れた玄関ガラスに応急処置の合板を打ち付けた蒼真さんが、パチパチと爆ぜる薪ストーブの前に椅子を二つ並べ、私を手招きした。
「お疲れ様でした、玲奈さん。今度こそゆっくり珈琲を飲みましょう。夕飯用に、昨日多めに作っておいたロールキャベツもありますよ」
「あ……ロールキャベツ……!」
昨日の夜、スコープ越しに『あんな料理を作る男性のお嫁さんになれたら幸せだろうなあ』と指をくわえて見ていた、あのロールキャベツだ。
私は椅子にちょこんと座り、温かいマグカップを両手で包み込んだ。依頼主が逮捕された以上、裏社会の仕事は今日で廃業だ。けれど──それは同時に、私がこの中頓別町に留まり、彼を見つめ続ける理由がなくなってしまったということでもあった。
「……あの、蒼真さん。私、本当はあなたを狙っていた人間です。それなのに、こんな風に優しくしてくれて……。明日には、この町を出ていきます。今まで勝手に覗き見なんかして、本当にごめんなさい……」
立ち上がろうとした私の手首を、蒼真さんの温かくて大きな手が、そっと引き止めた。
「え……?」
見上げると、黒縁眼鏡の奥の瞳が薪ストーブの炎を映して優しく揺れていた。そして彼の耳たぶもまた、夕焼けみたいに真っ赤に染まっていることに気がついた。
「出ていくなんて、言わないでください。玲奈さんは、四百五十メートル先からでもミリ単位の狂いなく一点を見抜く、世界最高の『目』を持っています」
蒼真さんは真剣な表情で、私の両手を包み込むように握りしめた。
「今度、中頓別町の森林を活かした木造建築プロジェクトが始まるんです。広大な敷地を正確に測量してくれる相棒がどうしても必要で……。いえ、そんな仕事上の理由は口実です。二週間、あの防風林から僕を見守っていてくれたあなたの視線に、僕の方がずっと救われていたんです。……今度は、スコープ越しじゃなくて、一番近くで、僕の隣にいてくれませんか?」
ドクン、ドクン、ドクン……!!
胸の奥で、これまでで一番大きくて温かい音が鳴り響いた。
風速ゼロ。湿度適正。コリオリの力によるズレもなし。彼が放った真っ直ぐな言葉の弾丸は、私の心臓のど真ん中を完璧な精度で撃ち抜いていた。
「……ふ、不束者ですが……! 狙撃と、蒼真さんを見つめることだけは、誰にも負けません……! だから、その……一生、あなたの隣で、専属の助手をさせてくださいっ!」
「はい。こちらこそ、末永くよろしくお願いします、玲奈さん」
薪ストーブの温かな炎が揺れる『北極星』の事務所で、私たちはどちらからともなく、そっと寄り添い合った。
冷たい北風が吹き始めた北海道・中頓別町の夜は、どんな高気密・高断熱の住宅よりもずっと、甘くてポカポカとした幸福な熱気に満たされていたのだった。
