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現代怪談都市伝説静岡県三島市富士山麓樹海未確認生物神隠し

富士山麓・神隠しの森と彷徨う太古の巨獣

静岡県三島市・深夜の大地を揺るがす不気味な地響きと、配信者を襲った戦慄の捕食者

画像はイメージです

第一章:富士の裾野のオカルト配信

静岡県三島市といえば、富士の清らかな湧水と名物のうなぎ、そして歴史ある三嶋大社が有名だ。
だが、その美しい街並みから北へと外れ、富士山麓の険しい樹海へと続く境界付近には、古くから奇怪な噂が絶えない山林が存在する。
いわく、夜になると大地が震え、鳥獣が忽然と姿を消す。
いわく、森の深部には、現代の生物学では説明がつかない『何か』が蠢いている──。

「はい、どうも皆さんこんばんは! オカルト検証系底辺YouTuberのハヤトです! 本日はなんと……スペシャルゲストをお呼びしております!」

スマートフォンのジンバルを片手に、俺──黒鉄くろがねハヤトは声を張り上げた。
木々の隙間から夕暮れの赤い光が差し込む山道。カメラを少し横へとパンすると、そこに立っていたのは、画面越しでも圧倒的な輝きを放つ美少女だった。

「みんなー、やっほー! 白雪リリアだよ! 今日はハヤトくんのチャンネルにお邪魔しちゃいました! きゃはっ、森の中ってちょっぴり怖いけど……ハヤトくんと一緒なら安心かな、なんちゃって!」

さらりとなびく亜麻色の髪に、大きな瞳。オーバーサイズのパーカーから伸びる細い足。
チャンネル登録者数八十万人を誇る超人気ストリーマーであり、高校の同級生でもある白雪しらゆきリリアは、カメラに向かって完璧なアイドルスマイルとウインクを振りまいた。

「おいリリア、カメラの前だからってキャラ作りすぎだろ。さっき三島駅でうな重の特上を二杯平らげて『食った食った、さてオカルト雑魚をからかいに行きますか』って言ってた奴と同一人物とは思えないぞ」
「ちょ、ちょっとハヤト!? 営業妨害はやめてよね! 今のカット! 絶対あとで編集で消しといてよ!?」

カメラの死角に入った瞬間、リリアは鋭い目つきで俺の脇腹を小突いてきた。地味に痛い。

『まったく……登録者三桁の底辺配信者のコラボに、なんでトップ配信者がわざわざ付き合ってくれるんだか』

内心でぼやきつつも、俺の心臓はさっきから早鐘を打っていた。
学校では高嶺の花、ネットでは雲の上の存在。そんな彼女が、なぜか俺の「三島の山奥で謎の地響きの正体を暴く」という胡散臭い企画に二つ返事で乗ってくれたのだ。
山道を歩くたび、リリアの髪から甘いシャンプーの香りがふわりと漂い、俺の理性を激しく揺さぶる。

「でも、本当にこんなところに怪異なんて出るの? 三島って言ったら三島コロッケとかせせらぎ散歩のイメージしかないんだけど」
「油断するなよ。この一帯は昔から神隠しの森って呼ばれてて、最近も鹿や猪が骨ごと食い散らかされる事件が多発してるんだ。ほら、足元気をつけろよ」
「きゃっ!?」

不意に濡れた木の根に足を取られ、バランスを崩すリリア。
俺はとっさに手を伸ばし、彼女の細い腰を抱き止めた。

「っと……危ない! 大丈夫か?」
「あ……う、うん。ありがとう……」

至近距離で重なる視線。
夕暮れの残光に照らされたリリアの頬が、ほんのりと赤く染まる。
胸の鼓動が、互いの体にダイレクトに伝わってくるような静寂。

「……ハヤトくん、手」
「あ、わりぃ!」

慌てて手を離す俺に、リリアはそっぽを向いて小さく呟いた。

「……別に、怒ってないけど。もうちょっと頼りないかと思ってたから、意外と男らしいとこあるじゃん……」
「え? 何か言ったか?」
「な、なんでもないわよ! ほら、さっさと奥に行くよ! 幽霊でもエイリアンでも、あたしがゲームの知識でギャフンと言わせてやるんだから!」

早足で先を歩き始めるリリア。その耳の先端が真っ赤になっているのを、俺は見逃さなかった。
なんだこの甘酸っぱい空気は。オカルト検証配信のはずが、完全に青春ラブコメの波動である。

──だが、甘やかな時間はそこまでだった。

迫り来る異形の影

ドン……ッ。

足元から、微かな振動が伝わってきた。
最初は、近くの新東名高速道路を走る大型トラックの振動かと思った。
だが、違う。

ドドン……ッ! ズズズン……ッ!

振動は徐々に大きく、重く、リズミカルになっていく。まるで、何トンもの質量を持つ巨大な生物が、二本の足で大地を踏みしめて歩いてくるような──。

「ねえ、ハヤトくん……これ、何の音?」
「……わからない。だけど、ただ事じゃないぞ」

周囲の木々がざわざわと激しく揺れ、鳥たちが狂ったような鳴き声を上げて一斉に飛び去っていく。
森全体が、恐怖に震えているかのようだった。

グオオオオオオオオオオオオン……ッ!!

空気を切り裂くような、聞いたこともない猛獣の咆哮が山林に木霊した。
動物園のライオンとも、サファリパークの熊とも違う。
もっと低く、もっと深く、腹の底を直接揺さぶるような、原始の暴力そのものの声。

「ひっ……!?」

リリアが悲鳴を上げて俺の腕にしがみつく。その震える指先が、俺の上着をぎゅっと掴んだ。
茂みが激しく左右に割れ、そこから姿を現したのは──。

「う、嘘だろ……?」

俺はスマートフォンを取り落としそうになった。
夕闇の中にぬっと現れた巨大な影。
体長およそ四メートル。頑丈な二本の脚、鋭利な鉤爪、ナイフのように尖った無数の牙が並ぶ凶悪な顎。
ぬらぬらと鈍く光る鱗に覆われたその姿は、図鑑で何千回と見たことのある存在そのものだった。

「きょ、恐竜……!? なんで静岡の山奥にティラノサウルスがいるのよぉぉぉっ!?」
「ティラノサウルスじゃない、あれは中型獣脚類……カルノタウルスの生き残りだ! って、そんな鑑定してる場合じゃない、逃げるぞリリア!!」

グルルルルァァッ!!

獲物を発見した太古の肉食恐竜は、黄色く濁った瞳をギラリと輝かせ、凄まじい脚力で大地を蹴った。
疾風のような初速で、巨大な顎が迫る──!

第二章:逃走劇と最強の援軍

「きゃあああああっ! 追いつかれる、食べられちゃうーーっ!」
「叫んでないで前見ろ! 足を止めるな!」

俺たちはなりふり構わず山道を転がり落ちるように疾走していた。
背後からは、大木がへし折れる凄まじい破砕音と、ズガガガガッという地響きが間断なく追いかけてくる。
時速五十キロは出ている。普通に走れば人間など一瞬で追いつかれ、ミンチにされて終わりだ。

「ハヤトくん、あそこ! 崖の下に道がある!」
「よし、飛び降りるぞ! 舌噛むなよ!」

俺はリリアの体を抱き寄せると、そのまま傾斜の急な斜面へと飛び込んだ。
枯葉と泥にまみれながら二人で斜面を滑り落ち、下の林道へと激突するように着地する。

「いったたた……」
「リリア、怪我はないか!?」
「だ、大丈夫……ハヤトくんが下敷きになってくれたから……って、ハヤトくん、腕から血が!」
「かすり傷だ、気にするな!」

見上げると、崖の上で肉食恐竜が苛立たしげに足踏みをし、太い尻尾を振り回していた。傾斜が急すぎて、すぐには降りてこられないらしい。だが、迂回路を探してすぐに追ってくるのは明白だった。

「ど、どうするの!? スマホは圏外だし……仮に繋がったって、警察に『三島に恐竜が出ました』って通報したって絶対いたずらだと思われるよ!」
「落ち着け……何か手はないか……」

絶体絶命の状況で、リリアがハッと目を見開いた。

「そうだ! ここから五百メートルくらい先に、あたしの親戚のおじさんのロッジがあるの!」
「おじさん? 一般人のロッジに逃げ込んだって、あの化け物の前じゃ木っ端微塵だぞ!」
「大丈夫! おじさんは三島市猟友会の副会長で、伊豆一帯の熊や猪を何百頭も仕留めてきた伝説のスナイパーなんだから! 仲間も集まってるはず!」
「猟友会……! よし、そこに賭けるぞ!」

俺たちは泥だらけになりながら、林道をがむしゃらに走り抜けた。

頼もしすぎる男たち

木立の向こうに、重厚な丸太作りの巨大なロッジが見えてきた。
敷地内には何台もの四輪駆動車が停まり、煙突からは暖炉の煙が立ち上っている。

「おじさまーっ! 助けて、源蔵げんぞうおじさまーっ!」

リリアがロッジの頑丈な木製ドアをドンドンと叩く。
ガチャリと鍵が開き、中から現れたのは──まさに『歴戦の猛者』という言葉を具現化したような巨漢だった。

彫りの深い精悍な顔つき、顔に刻まれた数々の古傷。筋骨隆々の肉体に猟銃用ベストを纏い、背中には最新式の大型ライフルを背負っている。

「ん? リリアじゃねえか! どうしたそんな泥だらけになって……それにそこの坊主は?」
「おじさま! 出たの、出たのよ! 山の中に、本物の恐竜が!」
「く、黒鉄ハヤトです! リリアの同級生で……本当に恐竜が出たんです!」
「……恐竜だと?」

白雪源蔵は一瞬眉をひそめたが、すぐにカッカッカと豪快に笑い声を上げた。

「若いもんがオカルトに毒されおって! どうせ見間違えた巨大な野良猪か、ツキノワグマの類だろうよ」
「本当なんです! 体長四メートル以上、二足歩行で牙がびっしり生えてて……!」

俺が必死に訴えると、ロッジの中から同じように屈強な猟友会の男たちが五、六人、ビール片手にぞろぞろと出てきた。誰も彼もが筋骨隆々で、散弾銃や大型ナイフを使いこなすプロフェッショナルたちだ。

「おいおい源蔵さんよ、恐竜だってよ!」
「ハハッ、そいつはたまげた! ジュラシックな獲物のお出ましか!」
「安心しな、お嬢ちゃんにハヤト坊主。三島猟友会を舐めてもらっちゃ困るぜ」

源蔵は愛用のセミオート散弾銃──ベネリM4にスラッグ弾をジャキッと装填し、獰猛な笑みを浮かべた。

「俺たちがこれまで仕留めてきた獲物は伊達じゃねえ。相手が猪だろうが、熊だろうが、あるいは本物の恐竜だろうが関係ねえよ。この山は俺たちの庭だ。鉛の弾を眉間にぶち込んで、今夜のジビエ鍋の具にしてやるぜ!」

なんという安心感だろうか。
映画なら完全に主人公を救う最強の助っ人部隊である。
これなら、あの化け物相手でもなんとかなるかもしれない──俺とリリアは胸を撫で下ろした。

ズウウウウウン……ッ!!

その時、ロッジの前の広場の地面が大きく波打った。

第三章:猟友会、秒で壊滅す

霧の立ち込める夜の庭先に、ゆっくりと姿を現したのは、先ほどの一頭だけではなかった。
闇の中から、ぬらぬらと光る爬虫類の瞳が、二対、三対、四対……次々と浮かび上がってくる。

「おいおい……マジかよ。群れで行動してやがったのか!?」

先頭に立つのは、先ほど俺たちを追ってきたあの体長四メートルの肉食恐竜。どうやら群れのボス格だったらしく、その周囲を、俊敏そうな小型のラプトルが四頭、扇状に取り囲んでいた。

「フン……まとめて現れやがったか!」

源蔵は動じることなく、悠然と銃を構えた。

「野郎ども、配置につけ! フォーメーションBだ! 風上から挟み込み、膝の関節を砕いてから眉間を──」

ドガッ!!

「え?」

次の瞬間、源蔵の斜め後ろにいたベテランハンターの鈴木さんが、横から猛スピードで飛び出してきたラプトルの強烈なタックルを受け、そのままロッジの壁をぶち抜いて屋根裏部屋へと吹っ飛んでいった。

ズドォォン!

「あ」

あまりにも一瞬。あまりにもアッサリとした退場。

「す、鈴木ぃぃぃぃぃぃっ!?」

源蔵が絶叫する。

「おのれ化け物め、喰らいやがれぇぇぇっ!」

怒りに燃えた別のハンター・佐藤さんがライフルを乱射する。ズガァン! ズガァン!と鋭い銃声が響き、弾丸が恐竜の硬い外皮に命中する──が、カチィンと火花を散らして弾き返された。

「なっ!? 弾が通じねえ──ぎゃああああああっ!?」

佐藤さんはボス恐竜の巨大な尻尾のひと振りで、ピンボールの玉のように夜空高くへとホームランされ、ロッジ裏の大木のてっぺんへと消えていった。キラーン、と星になるような勢いで。

「バ、バカな……俺たちの誇る大口径弾が……!?」
「ひ、ひるむな! 網を投げろ! 罠に追い込むんだ──」

残る三人の猛者たちがトラップ用のワイヤーネットを広げて突撃した。
だが、ラプトル軍団は阿吽の呼吸でアイコンタクトを交わすと、軽快なステップでネットを飛び越え、ハンターたちを三点倒立させる勢いで跳ね飛ばし、そのまま次々とロッジの窓ガラスを突き破って放り込んでいく。

ガシャン! ドカン! バリン!

「あばよ源蔵の頭領ぉぉぉぉっ!」
「無念っ!」
「来週のゴルフコンペ、幹事頼んだぞぉぉぉっ!」

爽やかな断末魔を残し、頼もしかった猟友会の仲間たちは、開始からわずか三十秒足らずで全員ノックアウトされた。まるでコントのような芸術的なやられっぷりだった。

散りゆく巨星

「う、嘘でしょ……おじさま、みんな一瞬でやられちゃったよぉぉぉっ!?」

リリアが頭を抱えて叫ぶ。
残されたのは、ロッジのポーチに立つ俺とリリア、そして猟友会副会長の源蔵おじさんだけだった。

目の前には、よだれを垂らしながら迫り来る五頭の肉食恐竜。

「くそっ……なんてスピード、なんて知能だ……! こいつら、獲物の狩り方を完全に理解してやがる……!」

源蔵の額から冷や汗が滝のように流れていた。
だが、彼は震える足を踏ん張り、俺たちを背中に庇うように両腕を広げた。

「ハヤト、リリア……! ここは俺が食い止める! お前たちだけでも逃げろ!」
「おじさま、ダメよ! 一人でなんて無茶──」
「いいから行けぇっ! リリア、お前には幸せになってほしいんだ……ハヤト、リリアを頼んだぞ……若い二人は……生きて、未来を……!」

涙なしには見られない、自己犠牲の感動的な名シーン。
源蔵は雄叫びを上げ、愛銃を構えて突撃した。

「喰らえぇぇぇぇぇぇっ! 三島猟友会の魂をぉぉぉぉぉ──」

パクッ。

ボス恐竜が首をくいっと伸ばし、源蔵を上半身からすっぽりと口に収めた。
脚だけが恐竜の口からピコピコと飛び出している。

「──って、若い二人ぃぃぃ! 早く逃げてぇぇぇぇぇぇっ!!(モグモグ)」
「おじさまーーーーーーーっ!?」

リリアの絶叫が夜空に木霊した。
源蔵おじさんはそのまま、ダイソン並みの吸引力でボス恐竜の胃袋へと吸い込まれていった。

第四章:VRエイマー覚醒

「あ、あ、ああ……どうしようハヤトくん、全員やられちゃった……! おじさまは食べられちゃうし、次はあたしたちだよぉ……!」

リリアが腰を抜かし、涙目で俺にしがみつく。
ボス恐竜は「ふう、前菜はおしまいか」とばかりに口の周りを舌でペロリと舐め、残る四頭のラプトルとともに、じりじりと距離を詰めてきた。

逃げ場はない。
ロッジは背後、周囲は包囲されている。
常識的に考えれば、ここでゲームオーバーだ。

だが──。

『ふざけるな……ここまで付き合ってくれたリリアを、こんなところで死なせてたまるかよ……!』

俺の視線が、ポーチの床に転がっていた一挺の銃に留まった。
源蔵おじさんが落としていった、軍用規格のセミオート式ショットガン──ベネリM4。
そして、散乱した弾帯。

俺は無我夢中で駆け出し、ショットガンを拾い上げた。

「ハヤトくん!? ダメだよ、銃なんて撃ったことないでしょ!?」
「現実ではな!」

俺は流れるような動作でセーフティを解除し、ボルトを引いて薬室を確認。足元に転がっていた十二ゲージのバックショット弾を、吸い込まれるような手つきでマガジンチューブへと装填していった。

カチャッ、ジャキッ、ジャキッ、カシャン!

一切の迷いがない、完璧なタクティカルリロード。

「え……? な、なんでそんなに手慣れてるの……!?」
「俺を誰だと思ってるんだ……! オカルト配信は副業! 本業はVRミリタリーFPS世界ランキング四位、プレイ時間累計六千時間のガチ勢だぞっ!!」

現実の銃を握るのは初めてだ。
だが、銃の構え方、照門と照星の合わせ方、リロードの手順、射撃時の反動制御──そのすべてを、俺の脳と筋肉はVRシミュレータの中で何十万回と叩き込まれてきた!

ギャオオオッ!

正面から、一頭のラプトルが目にも留まらぬ速さで跳躍した。
獲物の喉笛を引き裂くための、必殺の飛びかかり。

世界が、スローモーションに見えた。

『右斜め上空十五度、ターゲット移動速度秒速十四メートル……予測進路、ここだ!』

俺はノータイムで銃身を跳ね上げ、引き金を絞った。

ズガァァァァァンッ!!

夜闇を切り裂く轟音とマズルフラッシュ。
散弾のシャワーが、跳躍の頂点にあったラプトルの眉間に完璧にクリーンヒットした。

ギニャァッ!?

硬い頭蓋骨を撃ち抜かれたラプトルは、空中で一回転して無様に地面へと叩きつけられ、そのまま動かなくなった。

「う、嘘……ワンショット・ワンキル……!?」
「リリア、伏せてろ!」

俺は間髪入れずにトリガーを引き絞り、セミオートの連射速度を限界まで引き出し、残る三頭のラプトルへと銃口を向けた。

ズガァン! ズガァン! ズガァン!

一発、二発、三発。
放たれた散弾は、すべてラプトルの急所と関節を正確に捉えた。
あるものは目を撃ち抜かれて絶叫し、あるものは跳躍の軸足を粉砕されて前のめりに転倒。もう一頭も腹部に被弾して苦悶の声を上げる。
VR空間で培った超人的なエイミングと反射神経が、太古の捕食者たちの俊敏さを完全に凌駕していた。

「ぎゃ、ギャルルルゥ……!?」

手傷を負って戦意を喪失したラプトルたちが、恐怖に震えながら後退りし、夜の闇へと散り散りに逃げ出していった。

「す、すごい……! ハヤトくん、めちゃくちゃかっこいい……!」

後ろで見ていたリリアが、両手を胸の前で握りしめ、瞳をハートのように輝かせている。
だが、俺は息を呑んだ。

カチッ……カチッ……。

無情なトリガーの空撃ち音。

「しまっ……弾切れか!?」

ポーチの弾帯はすでに空っぽ。ロッジの中の予備弾薬は、さっきハンターたちが窓から飛び込んだ衝撃で棚ごと倒れ、瓦礫に埋もれている。
そして──。

激怒の暴君

ドズズズズズズズズン……ッ!!

手下たちを蹴散らされ、プライドを傷つけられた体長四メートルのボス恐竜が、激しい怒りに目を血走らせて歩み出てきた。
放たれるプレッシャーは小型のラプトルとは桁違いで、大地を揺らす足取りひとつにも圧倒的な威圧感がある。

だが、先ほどの正確無比な射撃を目の当たりにしたせいか、あの化け物はまだ銃に弾が残っていると思い込んでいるようだ。迂闊に飛び込めば眉間を撃たれると警戒しているのか、低く喉を鳴らしながら、こちらの隙を窺うようにじりじりと円を描いて間合いを測っている。
とはいえ、このハッタリで稼げる時間もそう長くはない。

「ハヤトくん……!」
「くそっ、弾さえあれば……!」

万事休すかと思われたその時、リリアが俺の肩を強く掴んだ。その瞳からは先ほどまでの怯えが消え、歴戦のゲーマー特有のギラリとした光が宿っていた。

「ハヤトくん、諦めるのはまだ早いよ! あの恐竜……よく見て!」
「え?」
「中型獣脚類、カルノタウルスの特徴……頭部が重くて前肢が退化してるから、急旋回ができない! それにあの突進力なら、足元のトラップに対する重心復帰が極端に遅いはず!」
「それって……!」
「そうだよ! あたしたちが何千時間もプレイした、あの神ゲーの知識を思い出すのよ!」

俺とリリアの視線が交錯した。
言葉にしなくても、通じ合えた。

「『ARK』だ……! 巨大恐竜捕獲用トラップを作るんだな!?」
「ピンポン正解! 敷地の資材ならまだある……二人の共同作業で、あいつを撃退してやろうじゃない!」

第五章:愛とクラフトの巨大トラップ大作戦

「リリア、あそこの集積された木材とチェーンブロックを運べ! 俺はロッジのウインチと誘導路をセットする!」
「了解! あたし、こう見えて配信外で資材集めファーミングばっかりやってるから、重量過多インベントリフルでも動けるんだからね!」

リリアは華奢な体のどこにそんな力があるのか、転がっていた太い丸太を軽々と担ぎ上げ、俺の指示する位置へと運び込んだ。
ゲームの知識を共有する二人の連携は、もはや長年連れ添った夫婦の領域に達していた。

「あいつの突進ルートはロッジ前の直線林道一択! 木製の巨大門フレームに見立てて、丸太をハの字に組んで誘導路を作るぞ!」
「オーケー! 足元にはベアトラップの代わりに、猟友会のワイヤーロープと大型車輪の留め具を仕掛けとく!」

グオオオオオオオオオオンッ!!

ボス恐竜が咆哮を上げ、ついに突進を開始した。
時速六十キロの暴走ダンプカーが突っ込んでくるような圧倒的威圧感!

「ハヤトくん、誘導は任せて!」

リリアが広場の中央へと飛び出し、大きく手を振った。

「おーい、デカ物! こっちだよー! あんたのその退化した短い前足、何の飾りのつもり!? あたしの配信のアンチコメントのほうがまだ骨があるわよー!」
「ちょ、リリア!? 煽りスキルのレベルが高すぎるだろ!」

激怒したボス恐竜の視線がリリアへとロックオンされる。
怒り狂った巨体が、リリアめがけて一直線に加速する!

「リリア、伏せろ!」
「きゃっ!」

突進が直撃するコンマ五秒前、俺はリリアの体を抱きかかえ、軒下の巨大貯水タンクの真下──固定ロープが留められた杭のそばの草むらへとダイブした。
抱き合ったまま地面を転がる二人。リリアの柔らかい感触と良い香りが全身を包むが、今は余韻に浸っている暇はない。

「今だ、スイッチ・オン!!」

俺はリモコンの起爆──ではなく、草むらまで手元に引き出しておいた大型林業用ウインチの有線リモコンスイッチを押し込んだ!

ビキビキビキッ──バチンッ!!

張られた鋼鉄のワイヤーが、突進してきたボス恐竜の足首に絡みつく。
同時に、ハの字に組まれた丸太の誘導路が恐竜の体を左右から挟み込み、巨大な摩擦ブレーキとなってその自由を奪った!

「ギャオォォォッ!?」

突然足を拘束されたボス恐竜は、慣性の法則に逆らえず激しく前のめりに転倒。
地面に激突し、ズザザザザーッと土煙を上げて滑り込んだ先には──。

「仕上げだ、喰らいなさいっ!」

リリアが起き上がりざまに叫び、足元の杭に固定されていた巨大貯水タンクの保持ロープをナタで叩き切った。
富士の湧水を何トンも溜め込んだ超重量の鉄製タンクが、滑車から外れて落下──!

ドゴオオオオオオオオオオオンッ!!

直撃。
正確無比に脳天へと叩きつけられた水タンクの衝撃により、ボス恐竜の黄色い瞳がぐるぐると渦を巻いた。

「ピヨピヨピヨ……」

まるで漫画のように頭の上に小鳥を飛ばしながら、巨大な恐竜は大地を揺らして横倒しになり、完全に白目を剥いて気絶したのだった。

終章:生還と配信の結末

静寂が、三島の山林に戻ってきた。
立ち込める土煙の中、俺とリリアは肩で息をしながら、横たわる巨大な肉食恐竜を見下ろしていた。

「……勝った、のか?」
「うん……勝ったよ、ハヤトくん! あたしたち、生きてる!」

リリアが弾けるような笑顔を浮かべ、そのまま俺の胸へと飛び込んできた。

「わっ、リリア!?」
「やったぁ! ハヤトくん、最高! 本っ当に頼りになって、かっこよかったんだから!」

ぎゅーっと抱きついてくるリリアのぬくもり。
カメラの前の作り物のアイドルスマイルじゃない、心からの純粋な笑顔。
俺の心臓は、恐竜と戦っていた時以上の猛スピードでドクドクと脈打っていた。

「あ、あのさ、リリア……ちょっと近すぎないか……?」
「え……?」

我に返ったリリアは、自分が俺に抱きついている体勢に気づき、ボッと顔から火が出るほど赤くなった。

「ひゃ、ひゃああああっ!? な、何勘違いしてんのよバカハヤト! これはその、命の恩人に対するハグであって、他意は一切ないんだからねっ!」

慌てて飛び退くリリア。
いつものツンデレな態度に戻ったが、その瞳は潤んでいて、ちらちらと上目遣いにこちらを盗み見てくる。

「……でも、まあ。その……」
「ん?」
「ハヤトくんが、配信の時よりずっと頼りになる男の子だってことは……認めてあげてもいいかな、なんて……」

蚊の鳴くような声でそう呟くと、リリアは両手で顔を覆ってしまった。
これは完全に、フラグが立ったと見ていいのだろうか。

その時だった。

オエエエエエエエエッ!!

気絶していたボス恐竜の腹が激しく波打ち、大きく開いた口から、ドロドロの胃液とともに何かが勢いよく射出された。

ボトッ! ベチャッ!

「ゲホッ、ゴホッ! ぷはあっ! 危ねえ、あと五分遅かったら胃酸で消化されちまうところだったぜ!」

地面に転がったのは、全身ぬるぬるの粘液まみれになりながらも、なぜか元気いっぱいの白雪源蔵おじさんだった。

「「お、おじさまーーーーーっ!?」」

さらに、ロッジの屋根裏部屋や割れた窓の残骸から、頭に包帯や絆創膏を巻いた鈴木さんやハンターたちがガラガラと這い出てきた。

「生きてたー!」
「ゴルフコンペの幹事、やらなくて済んだな!」

おまけに、ロッジ裏の巨木の上からは、枝に引っかかっていた佐藤さんがスルスルと無傷で降りてくる始末だ。
ギャグ漫画のような超絶生命力である。さすがは三島市猟友会の猛者たち、恐竜の猛攻ごときではビクともしなかったらしい。

数日後。
YouTubeの急上昇ランキング第一位に、一本の動画が躍り出た。

【ガチ遭遇】静岡の山奥で古代恐竜の群れに襲われたので、二人で協力して完全撃退してみた【白雪リリアコラボ】

再生数は瞬く間に数百万回を突破。
コメント欄は、未曾有の超常現象に対する驚愕と、それ以上に二人のイチャイチャっぷりに対するツッコミで埋め尽くされていた。

『恐竜の実在より、二人の距離感が近すぎて爆発しろと思いました』
『ハヤトのエイム力どうなってんだよwww』
『リリアちゃんのあんなデレ顔、公式配信で見たことないんだが!?』
『源蔵おじさんの耐久力草』

俺の部屋のパソコン前で、コメントを読みながら頭を抱える俺の横で、リリアがいたずらっぽく微笑みながらコーラを飲んでいた。

「ふふっ、大人気だね、ハヤトくん」
「お前のファンから『ハヤト爆発しろ』って殺害予告みたいなコメントが山ほど来てるぞ……」
「いいじゃない。実際、命懸けで守ってもらったんだし……次はあたしの部屋で、二人きりでARKの続き、やろ?」

そう言って、リリアは小悪魔のように微笑み、俺の肩にコテンと頭を乗せてきた。

古代の恐竜を撃退した俺たちだったが、どうやらこの強烈な甘い嵐から生き残る術は、どんなゲームの攻略Wikiにも載っていないらしかった。

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