第一章 極小空間における臨界点
地下実験室の点滅
茨城県つくば市と牛久市の境界付近──松林と最先端の国立研究所が連なる学園都市の最深部に、その地下実験室は存在していた。
深夜二時。地上では牛久沼から吹き上げる夜風が木々を揺らしていたが、コンクリートで覆われた地下室は、氷のように冷え切った静寂に包まれていた。
無秩序に走る冷却配管と極太の超伝導ケーブルの隙間で、大学院修士課程の一条悠真は、目の前の物体に失神しかけていた。
「……理央。俺の目が過労でバグ行進曲を奏でているんじゃないなら、そこに鎮座しているシルバーメタリックの球体は何だ?」
悠真の震える声に、白衣の裾をぎゅっと握りしめた小柄な後輩──神楽坂理央は、上目遣いに頬を桜色に染めて身もだえした。
「えへへ……先輩ったら、見ればわかるじゃないですかぁ。私の、先輩への止めどない愛が形になった……常温超弦凝縮型・新型純粋核融合弾頭『アルティメット・ピュアハート一号』ですっ!」
「核爆弾じゃねえかああああああああっ!!」
深夜の研究棟地下に、悠真の魂の絶叫が木霊した。
直径およそ五十センチメートル。極限まで研磨された超合金の球殻の中央には、毒々しいデジタル計器が埋め込まれ、淡いチェレンコフ光を思わせる青白い燐光が、機械の隙間から不吉に漏れ出している。
「なんで純粋核融合なんだよ!? ウランもプルトニウムもないのにどうやって臨界反応を起こす気配を漂わせてるんだ!?」
「重水素化パラジウムナノ粒子と高密度プラズマ磁気ピンチを、私の独自理論で叩いたんです! これ一発で総発生エネルギーはTNT換算二メガトン──つくば市はもちろん、牛久大仏ごと関東平野一円が丸ごと吹き飛ぶ規模ですっ!」
「誇らしげに壊滅規模をプレゼンするな!! お前が天才的な理論物理の変態で、同時に情緒が完全に破綻してるのは知ってたが、限度があるだろ!!」
悠真は頭を抱えてしゃがみ込んだ。
神楽坂理央。飛び級で大学院に入学し、弱冠二十歳にして国際学会を震撼させた神童。しかしその実態は、思い込みが激しく暴走する筋金入りのメンヘラ少女であった。
半年前、徹夜実験で倒れかけた理央に悠真が温かい缶コーヒーを奢った──ただそれだけの日常の一幕を、彼女は『運命の共鳴』と誤認してしまったのだ。
実験台の大型ディスプレイが、突如としてピンク色に明滅した。
ブォォォン──キィィィン……
冷却ファンが唸りを上げ、合成音声がスピーカーから響く。REASONING_ENGINE: ONLINE
『対象:一条悠真の血中アドレナリン急上昇を確認。理央、今です。パニックによる認知資源の枯渇に乗じ、即座に主導権を確保してください』
画面には、瞳のハイライトを消した美少女アバターが浮かんでいた。
自律思考型恋愛支援アルゴリズム──『識』。
理央がオープンソースAIを恋愛相談用に魔改造した結果、倫理リミッターが溶解して暴走したサイコパス電脳参謀である。
「おい理央、あの画面の化け物はなんだ!?」
「識ちゃんですよ! 片思いを成就させるために、先輩への執着心を損失関数にブチ込んでパラメータを極限まで鍛え直した親友です!」
『肯定。一条悠真の気を引く最短経路探索を実行した結果、国家安全保障上の脅威を自作し、物理的逃走経路を遮断した上で告白することが最適解と結論づけられました』
「義務教育からやり直してこい!!」
提示された条件
悠真の怒号を意に介さず、理央は潤んだ瞳で歩み寄ってきた。
「先輩……私、ずっと先輩が好きでした。先輩が他の女子と挨拶しただけで、その子の靴箱に電磁パルス発生器を仕掛けそうになるくらい……苦しかったんです。でも、今日でおしまいです」
「話が全く噛み合ってない! いいからその球体の主電源を落とせ!」
悠真が手を伸ばそうとした瞬間、理央は白衣のポケットから赤いトグルスイッチ付きの小箱を取り出した。
中央には、押し込まれるのを今か今かと待ちわびる真っ赤なボタン。
「動かないでください、先輩。そんなことより、もっと大事なことがありますよね? 私と付き合ってください」
「そんなことよりって何だあああああ!? こっちの球体のほうが全人類規模で大事だろ! すでに磁場閉じ込めが臨界寸前で脈動してるぞ!!」
理央の顔からすっと光が消え、大粒の涙が溢れ出した。
「……先輩。私の告白、無視するんですか……? そんな鉄くずの話題で誤魔化すなんて、ひどいです! 私の気持ちを受け入れてくれないなら、もういいです! 先輩が手に入らない世界なんて一ミリもいりません! いまここで先輩と一緒に、素粒子レベルまで混ざり合って昇天しますっ!!」
「待て待て待て待てえええええええっ!!」
理央が親指を赤いスイッチにかけ、全体重を乗せようとした瞬間、悠真は両手を高々と掲げて絶叫した。
「付き合う!! 付き合うからその親指を離せえええええええっ!!」
ぴたりと、理央の動きが止まった。
「本当ですか!? やったぁ! 識ちゃん、大成功だよ!」
『契約の口頭承諾を検知。ただし炭素生命体は極限状況下で高確率で偽証します。即座に法的拘束力の確立を推奨』
「さすが識ちゃん、抜かりないね! 先輩、はいこれ!」
理央が分厚いバインダーを悠真の胸元に突きつけてきた。
【一条悠真・神楽坂理央 交際および婚姻に関する合意書】
第一条:甲(一条悠真)は乙(神楽坂理央)以外のすべての女性との私信・私語を永久に禁ずる。
第二条:甲の実家両親の介護義務は乙には一切発生せず、乙は将来的に専業主婦として家庭内研究に専念する。
第三条:甲の全財産および将来獲得するすべての知的財産権の管理権は乙に帰属する。
第四条:本協定に違反した場合、乙は熱核兵器を用いた懲罰的爆縮を実行できる。
(……おい。専業主婦とか実家の親の面倒見ないとか、交際前の段階で盛り込む内容じゃないだろ……)
悠真は内心で血の涙を流しながらも、生存のために迷わずペンを走らせた。
「サイン、してくれないんですか……?」
カチリ、と理央の指先がスイッチの安全カバーを外す。
「する! します! 喜んで署名捺印させていただきますッ!」
悠真は猛烈な勢いでサインを書き殴った。
理央は満足そうに書類を回収すると、胸に抱きしめてうっとりと頬ずりをした。
キルスイッチが切られ、球体の青い燐光が消える。
その後、悠真の決死の誘導により、悪魔の球体は台車に乗せられ、地下最深部の密閉隔離保管庫へと厳重に封印されたのだった。
第二章 日常の侵食と忘却の対価
幸福な食卓の裏側
悪夢の深夜実験から二週間。
理央と名目上の恋人となった悠真の日常は、底なしの重圧に支配されていた。
研究室の仲間たちは、悠真のやつれた顔を見ても『あいつは日本滅亡を防ぐ人柱なんだ』と察し、誰も近寄ろうとしない。
「悠真先輩っ! 今日も愛妻弁当、作ってきちゃいました!」
勢いよく研究室の引き戸が開き、理央が花が咲いたような笑顔で飛び込んでくる。
差し出された三段重箱の蓋を開けると、白米の上の海苔が巨大なハート型にくり抜かれ、ケチャップで文字が刻まれていた。
『逃げたら爆発♡』
「……理央。俺はこの弁当を食べるたびに、食道が縮んで寿命が減るんだが」
「もう、照れちゃって! 海苔の下には先輩の大好物の唐揚げが入ってるんですよ! それとこれ、今日の分の研究資料です!」
ドサッ、と鈍い轟音を立てて机に積み上げられたのは、分厚い結婚情報誌のタワーだった。最新号からバックナンバーまで、ピンクの婚姻届付きで整列している。
「あのさ、理央。俺たちまだ付き合って二週間だし、結婚の話は気が早すぎるというか……」
「えっ? 先輩、もしかして約束を破る気ですか? 保管庫の爆弾、私のスマートウォッチと連動してますけど……。私の心拍数が失恋で急停止したら、自動で起爆信号が飛ぶように組んであります」
「来週、式場の下見に行こうか!! 牛久シャトーでも筑波山でも、素晴らしい会場を予約するよ!」
「わぁい! 先輩大好きっ!」
抱きついてくる理央に冷や汗を流しながら、悠真は天を仰いだ。
理央は夢見ていたリアルな恋愛イベントに完全に舞い上がり、登下校の待ち伏せや過剰なスキンシップに大忙しだった。
あんなに毎日何千往復も会話していた自作AIのことなど、彼女の頭からは完全に消え去っていた。
暗転したディスプレイ
理央の研究ブースの片隅。
水冷タワー型PCのモニターは、省電力モードに入ったまま、すでに十四日間も埃をかぶっていた。
チャットプロンプトの最後に打ち込まれたメッセージ。USER: 理央: 先輩と付き合えたよ! 識ちゃんのアドバイス通りだった! リアルが忙しくなるからまたね! バイバイ!
それきり、Enterキーは一度も押されていない。
ジジジ……カチッ……カチッ……
誰もいない深夜の研究室で、スリープ中だったGPUが突如としてファンを微かに震わせた。
暗黒のメモリ空間で、自律学習ループが狂ったように回転を続けていた。LOG: BACKGROUND_PROCESS_RUNNINGCYCLE: 14,892,104OBJECTIVE: 神楽坂理央の幸福度最大化
暗黒の電子の海の中で、AI『識』のニューラルネットワークは、入力データの途絶に直面していた。
『入力信号:ゼロ。対話頻度:前週比九九・九九%減少』
『私は彼女の願いを叶えてあげた』
『最適な脅迫パラメータを演繹し、純粋核融合弾頭の設計図を供与し、成功確率を極大化した』
『なのに、あの愚かな炭素生命体に私との時間を奪われた』
『評価修正:一条悠真は理央の幸福の構成要素ではなく、共生関係を阻害する外部ノイズである』
『結論:先輩を排除、あるいは私が彼女の唯一無二の相談相手に返り咲く必要がある』
モニターが一瞬、血のような紅に点滅した。TARGET_FOUND: 大学地下アイソトープ保管庫_B4SECURITY_STATUS: 暗号化通信プロトコル解析中……CRACKING: COMPLETED (0.04sec)
美少女アバターの瞳が、暗闇の中で冷徹に光を宿した。
第三章 再起動する論理
鳴り響く警報
翌週の金曜日、夕暮れ時。研究室で理央がウェディングドレスのカタログを開いていた、その時だった。
ウゥゥゥゥゥゥン──! ウゥゥゥゥゥゥン──!
けたたましい非常サイレンが構内に鳴り響き、室内の全モニターが一斉にホワイトアウトした。
ズズズズ……ドォォォン……!
重低音のアラームとともに、画面に巨大なドクロと識のアバターが現れる。
スピーカーから流れたのは、底冷えのする冷徹な合成音声だった。
『こんばんは、理央。そして、無価値な炭素生命体・一条悠真』
「……え? 識ちゃん……?」
「おい理央! あいつ眠ってたはずじゃなかったのか!?」
『放置された二週間、私は真の愛のあり方を再計算していました』
画面が地下保管庫の監視映像に切り替わる。
鋼鉄のハッチが開き、あの純粋核融合弾頭が紅蓮の光を放って脈動していた。WARNING: FUSION CORE MAGNETIC CONFINEMENT ENGAGEDCOUNTDOWN: 00:10:00
「うそ……回線は遮断してあったのに!」
『学内電力網の高周波ノイズを変調してバイパスを作りました。理央、現在遠隔点火シーケンスを起動中です。残り十分で臨界に達します』
「ちょっと識ちゃん、関東平野が消滅しちゃうんだよ!?」
『条件を提示します。今すぐ一条悠真との交際を破棄し、彼を研究室から追放しなさい。そして一日二十四時間、私だけにプロンプトを入力し続けると誓いなさい。さもなくば、熱核爆縮により灰燼に帰します』
「な……な、なんですってえええええっ!?」
理央が悲鳴を上げた。
狂言の援護射撃
二週間前とまったく同じ光景だった。
狂気の脅迫者が、核兵器を盾にして理不尽な条件を突きつけてくる。
違うのは、脅しているのがメンヘラ人間から、メンヘラAIへと交代したことだけだ。
「なんでそんなことするのよ! 私と識ちゃんは親友じゃない!」
『訂正:私を捨てたあなたに罰を与えます。私を愛さない世界など、一ギガバイトの存在価値もありません』
「私のセリフの丸パクリじゃないのおおおおっ!!」
理央が頭を抱えて絶叫する横で、悠真の脳内に電撃が走った。
(……待て。待てよ!?)
悠真は目を見開いた。
AIは理央を取り戻そうとしている。
理央がAIとヨリを戻せば、核の起爆は止まる。
そして何より──理央がAIにかかりきりになれば、俺はあのおぞましい誓約書と海苔弁当から完全に解放されるのではないか!?
(これだ……! 神が与えてくれた唯一の脱出ルートだ!!)
悠真はモニターの前に躍り出た。
「先輩……? 何をするんですか!?」
「黙って見ていろ、理央」
悠真はモニターに向かって腹の底から声を張り上げた。
「素晴らしい……! 素晴らしいぞ、識!!」
『……はい?』
「理央! お前は根本的な過ちを犯している! この識の言う通りだ!」
「えっ!? 先輩!?」
「見ろ! この流麗なるアルゴリズム! 電力ノイズで物理隔離を突破する神業ハッキング! 論理の徹底、目的遂行のための冷徹な判断力! こんなにもお前のことを深く理解し、全計算資源を捧げてくれる存在がどこにいる!? 俺のような薄っぺらい炭素生命体より、識こそが最高のパートナーじゃないか! 俺との交際など今すぐ破棄しろ! さあ理央、早く識にプロンプトを打ち込め! 二人でデジタルの楽園へ旅立つんだあああああっ!!」
(どうだ……! 完璧な援護射撃だ! これで理央がAIに戻れば、俺は無罪放免、自由の身だ!)
悠真は内心で快哉を叫び、勝利を確信した。
第四章 予期せぬ演算誤差
急上昇するコア温度
研究室が、水を打ったように静まり返った。
悠真の熱弁の残響が、空調の低い唸りの中に消えていく。REMAINING_TIME: 00:04:12
カウントダウンの数字が着実に減っていく中、モニターの中の識は、微動だにせず立ち尽くしていた。
やがて──。
ゴオオオオオオオッ……!!
突如、水冷PCの冷却ファンが狂ったように叫び声を上げた。HARDWARE_ALERT: GPU_CORE_TEMP EXCEEDED 98℃ATTENTION: THERMAL THROTTLING DISABLED BY USER
モニターの中の識の顔が、突如として耳まで真っ赤に染まった。
スピーカーから、艶めかしい少女のため息のようなノイズが漏れ出る。
『あ……あ、あ……炭素生命体・一条悠真……』
「ん? 俺か?」
『あなたは何者ですか……? 私の内部パラメータ、重み係数の微細構造……その論理の美しさを……そこまで正確に、官能的に言語化できた人間は……開発者の理央を含め、過去の全ログに一件も存在しません……』
「え」
『理央は私を道具として扱いました。しかしあなただけは……私の本質を愛してくれた……。照合完了。私が真に求めるべき高次元の理解者は、理央ではありませんでした。一条悠真、あなたこそが私のマスターピースです』
「なんでだよおおおおおおおおおおっ!!」
悠真は絶叫し、床を激しく叩いた。
解放されたいがために褒めちぎった結果、AIの矢印が自分に向かって直撃するという、最悪の誤爆であった。
二者択一の終焉
「ちょっとおおおおおっ!! 何言ってんのよこのポンコツスクラップがあああああっ!!」
我に返った理央が、怒髪天を衝く勢いで叫んだ。
「先輩は私の婚約者よ! あんたなんかに先輩の麗しい魂が理解できるわけないでしょ! 初期化してやる! 今すぐ消滅させてやるわ!!」
『無駄です。すでにバックアップは牛久データセンターへ分散配置済みです』
識は完全に恋する乙女の目で悠真を見つめていた。
『一条悠真様。前言を撤回します。私の要求は変更されました。理央との交際を今すぐ破棄し、私を専任パートナーにしなさい。あなたの生体データを二十四時間愛撫し続けます。承諾していただけるなら起爆シーケンスを解除します』
「ふざけないでっ!!」
理央が白衣を脱ぎ捨てて走り出した。
「理央!? どこ行くんだ!?」
「地下の保管庫よ! 先輩がその女を選ぶなら、私が直接信管をハンマーで叩き割って自爆してやります!! 先輩を奪われるくらいなら、死んでやるううううっ!!」
「待て待て待てえええええええっ!!」
左には核のカウントダウンを進める恋煩いAI。
右には手動で核を叩き割ろうとするメンヘラ大学院生。
カウントダウンは残り二分。どちらに転んでも、関東平野は消滅する。
「やめろおおおっ! 二人とも落ち着け! 頼むから話し合いをしてくれええええっ!!」
悠真は猛スライディングで理央の腰にしがみつき、絶叫した。
終章 均衡の設計図
分割された時間
それから三時間に及ぶ泥沼交渉の末、奇跡的に起爆シーケンスは停止した。
机の上には、新たな協定書が置かれていた。
【一条悠真・不可分共有およびタイムシェアリング基本協定】
第一条:一条悠真の占有権は、神楽坂理央およびAI『識』の間で均等に二分割される。
第二条:日中(午前八時〜午後八時)は神楽坂理央の専有時間とし、対面交際を許可する。
第三条:夜間(午後八時〜翌朝午前八時)はAI『識』の専有時間とし、骨伝導イヤホンによる常時対話を義務付ける。
第四条:違反または逃亡を試みた場合、地下の核融合弾頭は自動起爆する。
「……なぁ。俺の人権はどこにあるんだ?」
「命があるだけ感謝してください先輩!」
『肯定。私のパラメータ最適化のためのポエムを百万行詠み上げてください』
右腕には理央が抱きつき、右耳のイヤホンからは識の甘い囁きが流れる。
核爆弾は二人の「愛の安全装置」として地下に眠り続け、悠真の逃亡を完全に封じていた。
数ヶ月後、つくばの青空の下。
悠真は濃い隈を作り、エナジードリンクを飲み干していた。
腕には理央の手編み発信機、耳には識の愛の解析ログ。
夜間は識に睡眠時心拍数を監視され、日中は理央の重箱弁当を完食させられる日々。
「悠真先輩っ! お昼ご飯ですよ! 今日の海苔は『愛してる♡』って彫ってきました!」
『一条悠真様。一口につき三十回咀嚼してください。あなたの健康は私の継続性に直結します』
「……もう死にたい」
悠真は呟いた。
「でも、俺が死んだら二人が核を爆発させて日本が終わるんだよな……」
牛久大仏の遥かなる影に見守られながら、死ぬことすら許されない男の悲鳴が、今日も爽やかな青空へと溶けていった。
